(公開日:2021-03-25)
これまで再生可能エネルギー普及に関する取り組みとして、地方自治体の多くでエネルギーの地産地消に寄与する発電設備導入などを後押しする制度や補助金などに重点が置かれていました。しかしメガソーラーなどの大規模な開発が環境や景観、地域住民の生活などに与える影響が無視できないこともあり、一部では条例等による開発規制も進んでいます。
太陽光発電設備(太陽光パネル)の撤去・廃棄に関しても、昨今地方自治体での関心は高くなっており、以下では主に都道府県での取り組みを紹介します。
太陽光発電設備の導入に関しては、経済産業省や環境省、JPEAなどのガイドライン等に基づく必要があります。しかし発電所の撤去・廃棄に関しては規定が少ないこともあり、撤去・廃棄の周知や報告の義務化を別途規定している自治体は少なくありません。
また経産省などによる法制化(廃棄費用の外部積立)やNEDOによる技術開発が進められていますが、廃棄物・リサイクルという地域の課題解決のため独自の取り組みをする自治体もあります。
太陽光発電設備の適正処理・リサイクルに関しての地方自治体の取り組みは、概ね以下に分類できます。
以下では、都道府県を中心に実施されている取り組みの具体例を紹介していきます。
地方自治体として最も多い取り組みが、地方自治体が定めるメガソーラー等の維持・管理ガイドラインの中で、発電所の撤去・廃棄時の計画立案や報告を規定するものです。この中では廃掃法に基づく適正処理、廃棄費用の積立て、環境省・経済産業省が定めるガイドラインへの準拠などが規定されています。
都道府県による太陽光発電設備の撤去・廃棄ガイドライン(*1)
岩手県 | 太陽光発電設備の撤去等の際はご注意を |
宮城県 | 使用済太陽光発電設備を適正処理する際の留意点 |
茨城県 | 太陽光発電施設の適正な設置・管理に関するガイドラインについて 使用済太陽光発電設備の適正処理について |
栃木県 | 「栃木県太陽光発電施設の設置・運営等に関する指導指針」 について |
埼玉県 | 太陽電池モジュール(太陽光パネル)の適正処理について |
神奈川県 | 太陽光発電設備の保守点検・維持管理及び廃棄について |
石川県 | 法律・マニュアル・環境省通知等 |
山梨県 | 「太陽光発電施設の適正導入ガイドライン」の新訂について |
長野県 | 太陽光発電を適正に推進するための市町村対応マニュアル |
岐阜県 | 太陽光発電の適正導入に関する国の動向について |
静岡県 | 太陽光発電設備の適正導入に向けたモデルガイドラインの公表について(リンク切れ@2023/5/14) |
愛知県 | 愛知県土地開発行為に関する指導要綱・指導基準 |
三重県 | 三重県太陽光発電施設の適正導入に係るガイドライン |
滋賀県 | 大規模太陽光発電(メガソーラー)を含む発電事業の推進 |
兵庫県 | 太陽光発電施設等と地域環境との調和に関する条例について |
鳥取県 | 再生可能エネルギー発電事業者様へ |
岡山県 | 岡山県太陽光発電施設の安全な導入を促進する条例 |
香川県 | 太陽光発電設備の廃棄について |
高知県 | 太陽光発電施設の設置・運営等に関するガイドライン(令和2年8月11日改定)について |
福岡県 | 10kW以上の太陽光発電所をお持ちの方へ(リンク切れ@2021/6/5) |
長崎県 | 小規模な太陽光発電施設の設置を検討されている事業者のみなさまへ |
鹿児島県 | 再生可能エネルギー導入ビジョン2018~エネルギーパークかごしまの創造~ |
また以下の地方議会が、適正処理の法制化等を国へ要望する意見書(*2)を議決しています。
上記は都道府県に関する内容ですが、類似のガイドラインや意見書は全国の市町村でも行われています。
*1) PVリサイクル.com®調べ、自治体ホームページまたはWebで検索できたもののみを記載
*2) PVリサイクル.com®調べ、地方自治法第99条の規定により意見書として確認できたものを記載
一部の地域では地方自治体、地域の研究機関や事業者など、産官学で太陽光パネルのリサイクル技術の研究開発や収集ネットワークの構築などが検討されており、その取り組みを紹介します。
秋田県では「秋田県北部エコタウン計画」を策定し、県全域における環境・リサイクル産業の創出・育成が図られてきました。
今後廃太陽光パネル等の廃棄物の増加が見込まれることから、環境・リサイクル産業のさらなる集積を促進し、県全域における環境・リサイクル産業の創出・育成を促進することを目的とし、「秋田県環境・リサイクル産業集積推進計画」の中で「PVリサイクルネットワーク構築事業」が秋田県資源技術開発機構により実施されています。
福島県では環境・リサイクル分野において、県内外で産学官によるネットワークを形成し、研究開発や人材育成等に取り組んでいます。これらを通じて技術基盤の強化と持続可能なリサイクルのシステムの構築、新たな事業を生み出し、浜通り地域を中心に新たに環境・リサイクル産業の集積が進められています。
使用済太陽光パネルに関して、「太陽光パネルリサイクル事業化WG」として活動しており、また廃棄物の排出量予測と市場規模の推計(2021/4/13WEBサイト削除)も実施されています。
大量排出が見込まれる使用済太陽電池モジュールのリユース・リサイクルの体制を確立するため、産官学が連絡し、処理体制の確立や新たなビジネスの創出を目的に協議会が設置されています。
大量廃棄が見込まれる使用済太陽光発電設備の3R及び適切処理が推進されるよう、学識経験者及び関係者で構成する検討会が設置されています。
この検討会では、使用済パネルの効果的なリサイクル手法、有害物質の適切な管理、効率的にリサイクルルートの仕組みやリデュース・リユース促進の施策等に関して検討が進められています。
日本最大級のエコタウンを有する同市では、多様なリサイクル企業と技術が集積に取組んでいます。
再生可能エネルギーの拡充が求められるなか、太陽光発電システムの大量廃棄への対応として、北九州産業学術推進機構/九州経済調査協会を中心に、九州地域の太陽光パネルリサイクル拠点形成を目的に、太陽光発電システムのリサイクルの研究開発が行われました。
PVパネル大量廃棄時代に備え、全国のモデルケースとなる効率的な廃PVパネルのスマート回収スキームの構築と実証試験による回収スキームの検証、発電事業者に義務付けされた点検・保守の周知啓発、及びその他PVパネルの3R推進などを目的に協議会が設置されています。
一部の自治体では国による廃棄費用積立の法制化を待たず、廃棄費用の積立義務化まで踏み込んだ条例を制定する動きもあります。
将来の太陽光発電設備(使用済太陽光パネル)の大量廃棄への対応として、経済産業省や環境省により撤去・廃棄に関してのガイドライン制定や法制化が進められています。
加えて地方自治体においても、独自のガイドラインや協議会などの設置の動きがあります。
廃棄物行政には地方自治体が深く関わることや、再生可能エネルギーの導入には地域の事情を踏まえて実施されていることもあり、廃棄・撤去に関しても自治体独自の取り組みが今後も進むことも予想されます。
排出者である太陽光発電事業者にも、これら情報の収集と必要な対応が今後求められると考えられます。
・各自治体ホームページ
・環境省:再生可能エネルギーに関する条例・特区制度(リンク切れ@2022/6/29)
・NPO法人太陽光発電所ネットワーク:事業用太陽光発電施設等に対する地方自治体の条例等の制改訂状況の調査報告(アクセス不可@2023/5/23)
・地域ガバナンスからみた自然エネルギー条例の系譜(2017, 黒田豊彦)
・再生可能エネルギー基本条例による地域エネルギー政策の現状と可能性(2016, 櫻井あかね・白石克孝)