太陽光パネルリサイクルの情報を掲載しております。

パネルに含まれる成分(有用資源と環境影響)

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(公開日:2021-04-25)
(更新日:2024-09-07)

太陽光パネルのリサイクルにおいて、パネルがどのような成分で構成されているかを知ることはリサイクルを進めるにおいて、重要となります。
以下では現在広く普及している、結晶系シリコン型の太陽光パネルを中心に、パネルを構成する成分やその環境への影響などを概説します。

結晶系シリコン型の太陽光パネルの構造

現在国内外で最も普及している太陽光パネルの種類は、『結晶系シリコン』と呼ばれるものになります。

太陽光パネルの種類のシェア推移
太陽光パネルの種類のシェア推移(引用元:Fraunhofer ISE

結晶系シリコン型の太陽光パネル(太陽電池モジュールとも呼ばれる)は、太陽光を受けて発電をするシリコン製の太陽電池セルが基本単位となり、この矩形型の太陽電池セルは直行に並べられます。
並べられた太陽電池セルは、太陽光の受光面をカバーガラスで、背面側を樹脂製バックシートで挟み込み、それぞれの間を封止材EVA(エチレン酢酸ビニル、熱可塑性)で強固に封着します。
貼合わされたパネル(ガラス)を保護し設置架台に取付けが容易にできるよう、ガラスの周囲をアルミ製フレームで覆い保護されます。
パネルの背面側(バックシート表面)にジャンクションボックスが接続されており、発電した電気が取り出されます。

太陽光パネルの断面構造(ガイドライン)
太陽光パネルの断面構造(引用:環境省

太陽光パネルのリサイクルで技術的な課題になるのは、特に封止材であるEVA樹脂を剥離する工程となります。
これは20年以上屋外での使用に耐える構造になっており、通常の廃棄物の破砕や選別では処理が難しいといわれていました。
しかし現在では、多くのリサイクル技術も開発されており関連トピック①関連トピック②関連トピック③、全国で60社以上がリサイクル事業を展開しています。

太陽光パネルの構造とリサイクル後の利用例
太陽光パネルの構造とリサイクル後の利用例

シリコンでできた発電セルの大きさは、シリコンのインゴットから加工できるウエハーのサイズに制限されます。そのために各社の太陽光パネルは、概ね同じ大きさとなります。近年ではウエハーサイズの大型化が進んでおり、太陽光パネル1枚当たりの出力が500W(数年前は300W以下だった)を超えるものが製品化されています。
また結晶系シリコン型の太陽光パネルで60セルや72セルと呼ばれるのは、太陽電池セルをいくつ並べているかを示しており、それにより概ねパネルサイズの判別ができます。

環境省による太陽光パネルの含有試験

環境省が公表しているガイドライン『太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第ニ版)』の中で、太陽電池モジュールの各部位の含有量試験および溶出試験の結果があります。

含有試験結果(ガイドライン)
太陽電池モジュールの含有量試験結果(引用:環境省

環境省が公表している『太陽光発電設備等のリユース・リサイクル・適正処分に関する報告書』内で、太陽光パネルに含まれる成分に関して解説されています。

・有用物質としては、電極材料に銀が数万ppm オーダーで含有されている。結晶系のモジュールで総じて濃度が高く、薄膜系、化合物系のモジュールでは相対的に濃度が低い傾向にある。また、製造年次の古い製品は銀の濃度が総じて高く、製造年次の新しい製品は濃度のばらつきが大きい傾向が確認される。

・有害性の観点からは、結晶系のモジュールを中心として電極等にははんだが使用されており、鉛が含有される。また、化合物系のモジュールにおいては、セレンやカドミウムが含有されるものが存在する。

・結晶系モジュールにおける鉛の溶出については電極の寄与分が非常に大きいことが確認された。化合物系モジュールの場合は、CIS/CIGS 化合物を含むモジュール部分からのセレンの溶出が確認された。

引用元:環境省
パネル溶出試験(ガイドライン)
太陽電池モジュールに関する溶出試験結果(引用元:環境省

太陽光パネルの破砕物に対して溶出試験も実施されており、溶出試験の結果とその解説がされています。

有害性の観点から注意が必要な物質の溶出について、太陽電池モジュールを対象とした公定試験法や基準等は存在しないため、金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令に基づき定められている方法及び基準(環境庁告示第 13 号試験及び燃えがら・ばいじん・鉱さい・汚泥等についての廃棄物処理法による特別管理産業廃棄物の判定基準)に準じて太陽電池モジュールの破砕片の溶出試験を実施したところ、結晶系のモジュールの一部(3検体)において鉛が燃えがら等についての基準値(0.3mg/L)を上回る結果となった。
同様に、化合物系モジュールの一部(2検体)においてセレンが燃えがら等についての基準値(0.3mg/L)を上回る結果となった。
また、化合物系モジュールの一部(1検体)においてカドミウムが基準値を上回る結果となった。
なお、試料調製方法、分析機関により結果にばらつきが生じる可能性があり、製品の評価にあたっては注意が必要である。

引用元:環境省

一部の太陽光パネルの溶出試験の結果から、基準値を上回るものが確認されています。これら結果からも、すべてのパネル・条件において結果が同じではないものの、適切なリサイクルの必要性が確認できます。

太陽光パネルに含まれる有害物質とは

前述の試験結果では、太陽電池モジュールに含まれる有害物質として『鉛、セレン、カドミウム』が検出されており、一部では溶出量が多いという結果もあります。

セレン

セレンはCIS/CIGS太陽電池(銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)、ガリウム(Ga)を原料とする化合物半導体系太陽電池)の原料になります。国内でのシェアは相対的に小さく、また国内ではソーラーフロンティア社が代表的なメーカーと限られるため、廃棄時にはメーカーに問合せする等の対応が求められます。

カドミウム

カドミウムはCdTe太陽電池(カドミウム(Cd)とテルル(Te)を原料とする化合物半導体系太陽電池)の原料として含まれます。米国のファースト・ソーラー社が生産しており、国内で製造しているメーカーはありません。
カドミウムが及ぼす環境への懸念に対応するため、ファースト・ソーラー社では同社の販売したCdTe太陽電池を使用後に無償で引き取り、製品に含まれるカドミウムをリサイクルする制度を導入しています。

結晶系シリコン型のモジュールでは、電極等にハンダが使用されており、一部では鉛が含有されています。製造年が新しいモジュールほど鉛の含有量が少ない傾向もあり、無鉛ハンダの使用など含有量を減らす技術(*1)(*2)が採用されていると考えられます。

アンチモン

太陽電池モジュールのカバーガラスは光の透過度を向上させるために、鉄分量(Fe)の少ないガラス(*3)が使用されており、且つ清澄剤(ガラス製造時に消泡目的)としてアンチモンが多く使用されています。
アンチモンの溶出基準値は規定されていないものの、リサイクルガラスの利用に際しては環境や健康への影響評価が望まれます。

有価性の高い含有物として、太陽電池モジュールには微量の銀が含まれます。銀はセル表面のフィンガー電極を形成するための銀ペースト(*4)として使用されています。
この銀はセル・電極等を精錬により回収することができ、各リサイクル事業者がリサイクルを進めています。一方でモジュール製造コストに占める銀コストの比率が小さくなく、銀の使用量は減少する傾向にあります。

※太陽光パネルに含まれる銀についての詳しい説明はこちらをご覧ください。

ヒ素

ヒ素が用いられるGaAs太陽電池(ガリウム(Ga)と砒素(As)を原料とする化合物半導体系太陽電池)は、変換効率が高い一方で価格が非常に高く、宇宙用の太陽電池(*5)などのコスト度外視でも軽量・高効率・高耐久性が求められる用途でしか実用化されていません。
車載太陽電池としての研究開発(*6)は進むものの、メガソーラーなどの大規模発電所などでは採算が合わないことがあり、一般に市場に出回ってはいないのが実情です。

*1)三菱電機株式会社:単結晶無鉛はんだ太陽電池モジュール新商品発売
*2)日立化成工業株式会社:太陽電池用導電フィルム「CFシリーズ」を開発
*3)NSG/Pilkington:太陽光発電用ガラス(リンク切れ@2023/6/2)
*4)Si 結晶太陽電池における高精細スクリーン印刷の最新動向(京都エレックス, 中山真志)

*5)JAXA:宇宙用の太陽電池は地上用のものとどこが違うのですか?
*6)日経BP:世界を変えるガリウムヒ素系太陽電池、見えてきたコスト1/200の道筋

破損した太陽光パネルによる環境影響をどう考えるか

太陽電池モジュールの構造と含有物質、溶出試験の結果の一例を紹介しました。

  • 有害物質として太陽電池モジュールに含まれるものとして『鉛、カドミウム、ヒ素、セレン』があげられる
  • 太陽電池モジュールの構造により、含まれる有害物質は異なる
  • 『ヒ素』が検出されたサンプルは無く、化合物系太陽電池において『カドミウム』が検出された
  • 現行主流のシリコン結晶系太陽電池モジュールからは『カドミウム、ヒ素、セレン』の溶出はなく、電極に使用されている『鉛』が一部溶出試験で確認されている

一般的に太陽電池モジュールの発電セルや電極は充填剤(EVA樹脂等)で強固に封着されており、カバーガラスの割れやバックフィルム(バックシート)のき裂等により、有害物質が直接環境に触れる可能性は非常に小さいと考えられます。
また溶出試験は太陽電池モジュールを粉砕処理したサンプルにおいて実施されたものであり(*1)、運転中や災害などで破損した太陽電池モジュールから有害物質が溶出するリスクは、きわめて稀有なものと考えられます。

従って、万が一太陽光パネルが破損した場合であっても直ちに有害物質が流出するとは考えにくく、適切に撤去および処理・リサイクルを行うことで環境への影響は未然に防ぐことが可能だと考えられます。
一方で鉛等の有害物質を含有する可能性があることから、適切なリサイクルを行わず埋立処分する場合は管理型最終処分場への埋立処分を規定しています(*2, *3)

*1)金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令に基づき定められている方法及び基準(環境庁告示第13号試験及び燃えがら・ばいじん・鉱さい・汚泥等についての廃棄物処理法による特別管理産業廃棄物の判定基準
*2)『太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン』中の埋立処理に関する規定
*3)平成29年2月には中央環境審議会廃棄物処理制度専門委員会において、太陽電池モジュールについては鉛等の有害物質を含有する可能性のあることから、安定型5品目から除外し原則として管理型最終処分場で埋立処分すべきであると指摘された

なお他発電方式との比較においても、太陽光発電の生態系や人体への影響は小さいという報告もされています(関連トピック)。

使用済太陽電池モジュールの適正処理に資する情報提供

太陽光発電協会(JPEA)が公表している『使用済太陽電池モジュールの適正処理に資する情報提供のガイドライン』によれば、使用済み太陽電池モジュールの廃棄時に産業廃棄物処理業者や自治体等の適正処理に資する目的で、モジュールメーカー等に対して環境負荷が懸念される化学物質の含有について情報提供を求めています。

廃棄時に環境に影響を及ぼす可能性のある化学物質の視点と太陽光発電モジュールの種類に応じた含有の可能性の高さを考慮し、『鉛、カドミウム、ヒ素、セレン』の4物質を指定しています。
それぞれ含有基準値を『0.1wt%』とし、これを超える場合に個社ウェブサイト、その他の方法で情報開示することを推奨しています。

1)対象物質
廃棄時に環境に影響を及ぼす可能性のある化学物質の視点と太陽光発電モジュールの種類に応じた含有の可能性の高さを考慮し、以下の4物質とする。
 鉛、カドミウム、ヒ素、セレン
2)含有率基準値
表示を行う際の含有率基準値は以下の通りとし、これを超える場合に4項に定める方法で表示する。
 鉛: 0.1wt%
 カドミウム: 0.1wt%
 ヒ素: 0.1wt%
 セレン: 0.1wt%

引用元:太陽光発電協会

ガイドラインに基づき上記4物質の含有量に関しての情報公開をしているモジュールメーカーは、JPEAのウェブサイトから確認することができます。

※化学物質排出把握管理促進法において、特定第1種指定化学物質の含有率の閾値を0.1wt%以上と定められています。

まとめ

太陽光パネルに含まれる成分はパネルの種類によって異なり、一部の使用済太陽光パネルには環境や健康への影響のある成分も含まれています。
これらは適正なリサイクルを行うことで安全に処理することができ、且つ有効に資源を回収することもできます。
排出事業者はパネルの廃棄処分時に、パネルメーカーが公表している適正処理に資する情報を入手するとともに、適切にリサイクルできる中間処理業者の選定が求められます。

参考資料