(公開:2021-07-27)
(更新:2023-05-06)
太陽光パネルのリサイクルにおいて、構成材料をいかに再資源化できるかが重要となります。広く普及している結晶シリコン系太陽光パネルでは、有用資源として『銀』が使用されており、リサイクルの過程において回収されています(関連トピック)。
一方で太陽光パネルのリサイクルの現場では、銀の含有量が減少しており回収効率が難しくなっているとも囁かれています。
今回は太陽光パネルに使用される『銀』に関して、少し深掘りをしていきます。
結晶シリコン系太陽電池モジュールのセルは、P型シリコン層とn型シリコン層が接合されています。光を受けることで起電力が生じ、受光面と背面のそれぞれの表面に電極が構成されています。
受光面はより多くの光を受けるために、電極はより細くする必要があります。そのため表面に縞状の『フィンガー電極』が構成されており、このフィンガー電極に『銀ペースト』が使用されています。
銀ペーストはスクリーン印刷により表面に塗布された後、乾燥・焼成することでペーストの樹脂分を揮発させ、フィンガー電極が構成されます。
太陽光パネルに含まれる銀の含有量に関しては、モジュールメーカーの生産技術より違いがあり、当然ながらその含有量もデータとして公表されていません。
環境省により太陽電池モジュールの含有試験結果(関連トピック)で、一部データが公表されています。しかしこのデータは部位ごとの含有量であり、サンプル数も少ないため全体像を掴むことができません。
太陽光パネルに含まれる銀の量に関しては、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)のレポートからその推移が記載されています。資料が示す通り、銀の含有量(発電量当たり銀消費量)の減少傾向になっています。
※記事のソースは2013年のため、それ以降は予測値
太陽光パネル1枚が20kg、発電出力250Wの場合、銀の消費量が0.2 g/Wpと仮定すると、『(0.2×250)÷20=2.5 g/kg』となります。パネル質量の約0.25%を占めることになりますが、パネルの出力上昇もあり今後はさらに減ることが予想されます。
銀消費量の減少は銀ペーストやスクリーン印刷技術の向上、またバックコンタクト型セルの普及などパネルの構造に依ります。
一方で太陽光発電産業全体での銀消費量はこれまで増加傾向にあり、2022年で4,365トン(約14,030万オンス、全需要は35,210トン)となっています。
パネル当たりの銀消費量は減少傾向にあるものの、世界的な太陽光発電の普及により2016年以降に大幅に増加してきました。一方で、太陽光発電の市場全体の成長に伴い銀の消費量は増加を続けています。
パネル出力当たりの銀使用量には、下げ止まりの傾向も見られます。一方で、今後の世界的な太陽光発電の需要の高まりと、銀そのものの価格推移によっては更に減少していくことはが予想されています。
この傾向は太陽光パネルの価格という面では設置コストの低減につながります。
一方で廃棄処分でのリサイクルでは銀回収のメリットが減ることになり、将来的にバックシート・セルの処理が課題になる可能性も考えられます。
太陽光パネルの製造方法や採用する技術レベル、また生産量などにより、生産コストに占める銀の割合を一概に説明することはできません。
参考までにIRENAのレポートが、材料コストの内訳を説明しています。
質量比で1%に満たない銀が材料コストで最も影響が大きいことが分かります。
結晶シリコン系太陽光パネルに含まれる『銀』に関して、使用されている量やこれまでの推移と今後の見通しを概観しました。
多くのリサイクル業者がバックシート・セルから銀を回収することで、太陽光パネルのリサイクルの実現と資源の有効活用を説明しています。
天然資源を代替することは、CO2排出削減の観点からも積極的に推奨される一方で、銀含有量の減少は回収プロセスでのコスト増につながることが考えられます。
太陽光パネルへの銀消費量が低減している事実は間違いないもの、将来の廃棄時の情勢(銀需給や価格、CO2排出価格など)に依存することも考えられ、どのような形が最適なリサイクルになるかは現時点では見通しにくいものとなっています。
これまでリサイクル技術として、ガラスの分離技術に焦点が当たってきましたが、効率的な銀回収プロセスの開発も望まれます。