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太陽光パネルのリサイクルによるCO2排出量削減効果

(公開日:2022-08-25)

廃棄される使用済太陽光パネルをリサイクルすることは、原材料を回収し資源循環と環境負荷低減につながります。
資源を有効に再利用することはCO2の排出削減にも寄与すると考えられており、各種の研究や実証事業でその効果が確認されています。
今回のトピックでは、CO2削減効果の各種結果と注意するべき点を考えていきます。

CO2排出量算出の考え方

一般にリサイクルにおいて、既存の処理プロセス(A)を新たに処理プロセス(C)の導入によりCO2削減効果がある場合を考えます。ここで既存の処理プロセス(A)は、『ベースライン』と呼ばれます。
プロセス(C)によりリサイクルされることにより再生品(製品E)が得られる場合、従来その製品(E)を製造していたプロセス(B)が削減されることになります。

一方でプロセス(C)の導入により、追加的なプロセス(D)が必要になる場合もあります(例えばプロセス(A)での副生物(製品F)を、代替的に製造するなど)。
プロセス(C)やプロセス(D)は『代替効果』と呼ばれ、これらプロセスにおけるCO2排出量も考慮する必要があります。

バウンダリの例(引用元:環境省

それぞれのプロセスの範囲は『バウンダリ(評価範囲)』と呼ばれ、リサイクル事業を実施することによるるCO2削減効果は次式で与えられます。
 ※ [CO2削減効果] = [事業実施前のCO2排出量]-[事業実施前のCO2排出量] = [A+B]-[C+D]

リサイクルのうち、処理プロセスだけではなく循環資源の調達等から廃棄までを一つの事業と捉えて、バウンダリに含まれるプロセスのCO2排出量を考慮する必要があります。

これは電気自動車が走行中にCO2排出はゼロであっても、発電時のCO2排出量と走行時のガソリン燃焼に由来するCO2排出量を比較しなければならないのに似ています。

電気自動車のCO2削減効果の考え方

プロセスのCO2排出量の算出

具体的なCO2排出量の計算は、『活動量』と『排出原単位』が用いられます。
環境省の資料によれば、活動量は『温室効果ガスの排出量と相関のある排出活動の規模を表す指標で、活動により異なるが、生産量、使用量、焼却量等がこれに該当する』ものであり、排出原単位(排出係数)は『一単位当たりのある活動に伴う温室効果ガスの排出量を算定するために使用する係数のこと』と説明があります。

バウンダリ内の各プロセスについて『活動量』と『排出原単位』の積がCO2排出量として算出され、足し合わせたものが対象とする事業にとして評価されます。

プロセスごとのCO2排出量の計算例(環境省資料をPVリサイクル.comで編集)

実証事業での排出削減量の検討結果

過去に実施された太陽光パネルリサイクルに関する実証事業や技術開発プロジェクトにおいても、リサイクル技術の研究開発と合せてCO2削減効果が検討されています。

  • 環境省:平成27年度低炭素型3R技術・システム実証事業
     ①使用済太陽光パネルユニットの新たなリサイクル、リユースシステムの構築実証事業(レノバ)
  • 環境省:平成28年度低炭素型3R技術・システム実証事業
     ②使用済太陽電池モジュールの新たなリサイクル、リユースシステムの構築実証事業(リサイクルテック・ジャパン)
     ③太陽電池リサイクルにおけるガラス再生と高効率解体工程の実証(パナソニック)
  • 環境省:令和2年度脱炭素型金属リサイクルシステムの早期社会実装化に向けた実証事業
     ④太陽光パネルの収集・リユースおよび非鉄金属の回収に係る技術実証(イー・アンド・イー ソリューションズ)
     ⑤太陽光パネルの高度選別技術開発とリサイクル・システム構築による早期事業化(新菱)
  • 環境省:令和3年度脱炭素型金属リサイクルシステムの早期社会実装化に向けた実証事業
     ⑥太陽光パネルの収集・リユースおよび非鉄金属の回収に係る技術実証(イー・アンド・イー ソリューションズ)
     ⑦太陽光パネルの高度選別技術開発とリサイクル・システム構築による早期事業化(新菱)
  • NEDO:太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト
     ⑧ホットナイフ分離法によるガラスと金属の完全リサイクル技術開発(浜田/エヌ・ピー・シー)
④(R2)太陽光パネルの収集・リユースおよび非鉄金属の回収に係る技術実証

各報告書で検討されているCO2削減効果を、一覧にしたものが下図になります。

太陽光パネルリサイクルによるCO2排出削減効果比較(各種報告書よりPVリサイクル.com作成)

廃棄される太陽光パネルをリサイクルすることでCO2排出量を削減に寄与し、特にリユース場合においてはCO2削減効果が顕著に大きくなっています。

一方で、それぞれの検討結果の数値には大きな差があり単純な比較ができないと考えられ、この違いが何に起因するのか適切に理解する必要があります。

なぜCO2排出量の結果が大きく異なるのか?

CO2排出量の算出は『バウンダリ』を設定し、バウンダリ内の各プロセスについての『活動量』と『排出原単位』の積を足し合わせた数字として評価されます。
従ってCO2排出量の削減効果を評価する場合、『バウンダリ』『活動量』『排出原単位』の3つをどのように範囲や数値に基づき決めるかによって、最終的な評価が変わってきます。

太陽光パネルリサイクルのバウンダリ例(引用元:NEDO

実際の計算や結果の評価・比較などを行う際には、以下の点に注意が必要です。

① バウンダリ

  • 事業前後のプロセスとして適切な範囲が設定されているか
  • リサイクル技術に応じた適切な代替効果が設定されているか
  • 本来評価すべきプロセスが漏れていないか
  • 異なる評価の結果での比較を行う場合は、バウンダリの範囲は等価か

② 活動量

  • CO2排出量への影響が大きい数値が適切か(例えば、精錬プロセスの銀・銅含有量)
  • 整合の取れない複数の資料から都合の良い数値を使用していないか
  • 未知の条件や仮定に基づく場合、その想定が妥当か

③ 排出原単位

  • 整合の取れない複数の資料から都合の良い数値を使用していないか

プロセスで扱う対象(例えば、太陽光パネル1トン)が同じ場合、本来活動量(アルミや銀の含有量)は同じ数値であり、リサイクルで行われるプロセス(排出原単位)の組合せと代替効果により評価されます。
前項のCO2排出量の比較では上記の条件がそれぞれ異なっており、従って排出削減効果も大きな違いがあったと考えられます。

中間処理業者や装置導入に際して、今後リサイクルに伴うCO2排出量も重要な評価指標になると考えられます。上記の理由からも単純な比較ではなく前提条件を考慮した上での評価が必要です。
環境省や自治体が実施している設備導入補助金でもCO2排出削減効果は求められており、CO2削減量を公正に判断ができる仕組みが望まれます

海外の事例

海外の文献では環境影響評価(Life Cycle Assessment)としてリサイクルを評価をしているケースが多く、水資源や人体への健康被害などの指標の一つとしてCO2排出量(気候変動)が評価されているケースが多いようです。
太陽光パネルのリサイクルを行うことで、環境への影響を低減できることは多くの文献等で確認されています。

LCAの事例①(引用元:IEA
LCAの事例②(引用元:MDPI

実際にどの程度の電力を消費するのか

廃棄される太陽光パネルを適切にリサイクルすることでCO2排出量を削減できますが、実際のリサイクルにおいてどの程度の電力が必要か、感覚的に分かりにくいのも事実です。
幾つかのリサイクル装置メーカーでは、装置の最大出力を公開している数値を用いて、リサイクル(ガラス剥離・選別工程)に要する消費電力を見ていきます。

リサイクル装置の最大出力[kW]

各社処理能力が太陽光パネル1枚あたり60秒のため、所要電力は『装置出力[kW]×1/60[hr]』で与えられ、1枚当たりの処理に『0.5~1.0 kWh』程度の電力が必要となります。
 ⇒ ※太陽光パネル4枚(1枚250W換算)で1時間程度発電した電力

撤去作業や運搬、精錬工程などでエネルギーは要するものの、太陽光発電が生涯を通じて発電することができる電力に比べてはるかに小さいことが分かります。

まとめ

廃棄される太陽光パネルを適切にリサイクルすることで、資源循環を実現するだけでなくCO2削減にも寄与することが、各種の実証事業や研究で明らかになっています。
一方でCO2排出量の評価・比較は算出する条件で結果が大きく異なることから、情報を発信する側および排出事業者などの双方において、正しい理解が必要です。
太陽光パネルのリサイクルも気候変動対策の一つになることから、リサイクル事業におけるCO2排出量(削減効果)を公正に評価できる基準・ガイドラインなどが今後求められると考えられます。

参考資料