IEA PVSP(国際エネルギー機関の太陽光発電システムプログラム)は、日本を含む世界主要国での使用済太陽光パネルのリサイクルに関する最新のレポートを2022年9月に公表しています。
本レポートでは、EU(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)、日本、韓国、中国、オーストラリア、および米国における、現在のPVリサイクルに関連する規制・産業政策、リサイクル市場の概要が纏められています。
本トピックでは、レポートから注目すべき内容をピックアップし、概要を紹介していきます。
※以下の内容は運営者による要約であり、正確な資料として用いる場合などは原本を参照ください
サマリー(EXECUTIVE SUMMARY)
各国の規制
- EU:PVモジュールに特化したEOL規制を採用
- 韓国:EPR(拡大生産者責任)規制が2023年に施行予定
- 豪州: PVモジュールが2011年のProduct Stewardship Actでカバー、州レベルの議論も進む
- 米国:一部の州でEOL PVに特化した規制が存在
- 日本:PVモジュールに特化した廃棄物規制は無し。いくつかのリサイクル活動や研究開発が実施されており、現在では商用レベルでリサイクル技術も利用可能
- 中国:PVモジュールのリサイクルおよびEOL管理に関する政策や規制は開発中
リサイクルの現状
- ドイツ、フランス、イタリア、日本では年間数千トン、スペインや韓国では1,000トン/年未満
- PVモジュールの廃棄量に関しての、信頼できる世界的なデータは無い
- リサイクル技術は多くは機械的方法であり、熱・化学的プロセスが併用されている
- 廃棄モジュールの回収率は80%(重量比)以上と推定されるが、リサイクル率は回収率よりわずかに小さい
- リサイクルプラントの平均処理能力は数千トン/年、ほとんどのプラントが1,000トン/年以下
- 実際の処理量は100トン/年以下で、稼働率は現状では低く単位あたりの処理コストは高い原因となっている
- 結晶Si系太陽電池セルやプラスチック・高分子材料は、現在リサイクルされていない
- 回収されたガラスの利用は価値の低い製品に限られており、輸送コストの高さが課題
将来予測や課題
- EOL規制が整備されている国や地域では、適切に処理され、リサイクルされている
- 現状では市場の構造的要因で、世界的にPVモジュールのリサイクルは高コスト・低収益となっている
※廃棄量の少なさ、利用可能なリサイクル技術の制限、物流の課題、回収材料の未発達な市場など - PV EOL規制やリサイクルへの研究開発投資が行われることで、将来需要に対応して高付加価値かつ低コストのリサイクルが加速されると期待される
使用済太陽光パネルの廃棄量予測(Introduction)
- PVモジュールの廃棄量は、2050年には6,000万トンと予測されている
早期排出シナリオでは2030年に8万トン、2050年に7,800万トンに増加すると想定される - 2040年には太陽光発電の年間導入量650万トンに対して廃棄量が250万~350万トン、2050年には年間導入量700万トンに対して廃棄量が550万~6000万トンまで増加すると予測
- 2050年ネットゼロ目標に向けて太陽光発電導入は加速すると考えられており、それに伴い廃棄量も増加
各国の太陽光パネルリサイクルの現状や取組み(STATUS OF PHOTOVOLTAIC MODULE RECYCLING)
EU全般(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)
- EUでは2012年のWEEE(電気電子廃棄物)指令に基づき、PVモジュールのリサイクルが義務付け
- 2018年の回収量は、EU12か国で13,951トンとなっており、増加傾向にある
ドイツ
- 2018年にPVモジュールが211,142トンが設置され、7,865トンのモジュールが回収されている
- Si系モジュールではReiling社、CdTe系モジュールはFirst Solar社などによりリサイクル処理
- 将来の廃棄量として、2030年までに40万~100万トン、2050年までに430万トンまで増加すると予測
- 現状では回収・処理費用が高く、有用な資源のリサイクル性に課題があることも指摘
フランス
- 2019年に4,905トンのモジュールが回収、2020年はCOVID-19の影響で回収量が減少(4,102トン)
- Soren(旧PV CYCLE France)が回収業務を管理しており、Veoliaがリサイクル処理を実施
- 2017年に稼働したVeoliaの処理施設では、1枚当たり1~1.5分で処理を行い、95%をリサイクルしている
- 将来の廃棄量として、2030年に4.3万トン、2040年に11.8万トンまで増加すると予測
イタリア
- 2018年に1,305トンのモジュールが回収
- FIT制度による太陽光発電設備は、10kWを境に国の回収センターまたは許認可を受けた処理事業者で処理する
- 廃棄モジュールの回収・処分の管理費用を保証する目的で、奨励金制度から保留金を差し引く制度がる模様(詳細不明)
- 現時点では廃棄される量が多くないことから、モジュール専用のリサイクル施設はない
- 将来の廃棄量として、2030年までに14万~50万トン、2050年までに220万トンまで増加すると予測
スペイン
- 2019年に226トンのモジュールが回収
- EPR(拡大生産者責任)として、生産者(製造者、販売者、設置者等)が廃棄物管理に必要な措置・費用負担を義務付け
- 2030年に累積導入容量が39GWにあるとの予測もあり、今後廃棄量は増加すると予測されている
日本
- 廃棄モジュールに特化した廃棄物法規制はなく、一般の廃棄物処理の枠組みで規制
- 環境省により、適正処分に関するガイドラインが公表されており、FIT制度にて廃棄費用の積立が義務付け
- 2020年度に6,300トンが廃棄されており、4200トンがリユース、2100トンがリサイクル処理されている
- 全国で29ヶ所の処理施設が稼働し半数以上が専用リサイクル装置を導入しているが、稼働率は現状では低水準
- 将来の廃棄量として、2030年代半ばに年間17万~28万トンに達すると予測
- リサイクル後のガラスの高付加価値化や、適切な回収・輸送などの低コスト化が課題
韓国
- 国と産業界の協議により2023年にEPR規制を導入、リサイクル・リユース比率80%以上を満たす必要
- Yoonjin Tech、WonKwang S&T、Chungbuk Technoparkなどの企業がリサイクル装置を導入
- 将来の廃棄量として、2030年に年間2.1万トン、2040年に年間11.3万トンまで増加すると予測
- 今後増加する廃棄モジュールに対応するため、政府によるR&Dへの支援が活発になっている
中国
- 廃棄PVモジュールのリサイクルに関する政策や規制はなく、リサイクル産業も含め検討段階
- パイロットプラントがスタート、各種の産業セクターによるリサイクル技術の研究開発が進んでいる
- 公式な発表では2035年までに400万トンを超えるとされているが、最新の研究では2040年までに130万~400万トン、2040年までに680万~3,600万トンまで増加すると予測
オーストラリア
- ビクトリア州でPVパモジュールを含む電子廃棄物が規制されているが、その他の州では特化した廃棄規制はない
- 豪州ではProduct StewardshipでEPR原則が制定されているが、現状既定されていないPVシステムに関して検討が進んでいる
- 廃棄PVモジュールは埋立処分または低いリサイクル率で処理、高コストな処理・運搬のためリサイクルや再利用が進んでいない
- いくつかの企業やスタートアップによるPVリサイクルに特化した開発・事業化が進んでいる
- 2020年代半ばに年間1万トンの廃棄量が、2030年に3万~14.5万トン、2040年に30万~45万トン、2050年には90万~95万トンに達すると予測されている
- 住宅用太陽光が主流(70%以上)の豪州では、予測されているより早く廃棄が始まるとの懸念もある
米国
- 州ごとにPV廃棄物に関する規制があるものの、国全体としての連邦規制はない
- 結晶Si系や薄膜系でいくつかのリサイクル事業者があり、First SolarがCdTe系PVリサイクルで世界最大規模(150トン/日、リサイクル率90%)である
- 2050年までに550万~1,000万トンのPV廃棄物が発生する可能性が指摘
- Si系太陽電池のリサイクルコストや技術の限界も指摘されており、統合されたSi系PVのリサイクルシステムは現時点では存在していない
- 現状のSi系PVの処理コストはモジュール当たり25~30ドルで埋立処分に比べて高コストだが、DOEは2030年に処理コスト150ドル/トン(3ドル/モジュール)を目標にしている
PVリサイクルの市場調査(SURVEY ON PHOTOVOLTAIC MODULE RECYCLING IN THE MARKETS)
各国のPVリサイクルの動向に関して、リサイクル事業者への調査を基に以下の項目について整理・分析されています。
- 法規制・回収システム
- パネル種類・構造、処理技術、回収される材料、リサイクル率、設備能力・処理量、処理コスト
- リサイクル材の行先
- リサイクルの課題や障壁
本項では、各国のPVリサイクル企業へのアンケートを通じて、リサイクル市場の現状や課題が述べられています。
アンケートは29社の企業に実施されたとありますが、そのうち日本の企業は21社と約7割を占めています。
処理施設の規模などに違いはあるものの、日本企業のリサイクルの取組みは世界的に進んでいることが分かります。
一方でリサイクル技術やシステムの輸出といった視点での議論はなく、日本の産業輸出としての政策が求められます。
まとめ
IEA PVPSのレポートでは、2010年代以降の急速な太陽光発電の普及が遠くない将来の大量廃棄につながると予測しています。
将来予測される使用済PVモジュールに関する廃棄物のEoLの最適化には、法規制や技術的アプローチを統合し、各国の実情に適合させる必要があるとも述べられています。
しかしながら、現状では廃棄量の少なさ、リサイクル技術や回収システムの課題、リサイクル材料の市場が未発達なことが指摘されています。
結果としてリサイクルが高コスト・低収益なビジネスとなっており、さらなる改善が求められます。
参考資料