(公開日:2022-10-22)
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)では、『太陽光発電システム長期安定電源化基盤技術開発プロジェクト』が2019年度に実施されています。
太陽光パネルリサイクルに関わる項目もあり、『太陽電池マテリアルリサイクル要素技術開発』、『太陽光発電システムのリサイクルに関する国内動向調査及び排出量予測』の内容も報告書(事後評価分科会)として公開されています。
今回のトピックでは、プロジェクトおよびそれぞれの開発項目の概要を紹介していきます。
エネルギー基本計画(2018年7月閣議決定)にて再生可能エネルギーの主力電源化への取組みが掲げられており、太陽光発電については地域における分散型電源や非常用電源としての利点がある一方で、発電コストや出力不安定性などの課題解決に向けた技術開発が必要とされています。
再エネ特措法(FIT制度)により導入量が急拡大したものの、期間終了後の事業継続性や安全性・信頼性への懸念、廃棄パネルの適正処理技術など、これら課題への対応が必要だと指摘されています。
このような社会的・技術的背景の下、太陽光発電の長期安定電源化を目指す取り組みとして、本プロジェクトでは下記3つのテーマが実施されました。
(Ⅰ)「太陽光発電設備の信頼性・安全性向上有効技術の評価」
(Ⅱ)「太陽電池マテリアルリサイクル要素技術開発」
(Ⅲ)「持続可能な太陽光発電動向調査」
なお本プロジェクトは、2020年度から開始される『太陽光発電主力電源化推進技術開発プロジェクト』に引き継がれる様です。
環境省や経産省などの調査・資料など既に多くの指摘がされていますが、FIT期間20年の終了後に使用済太陽光パネルの排出量が増加し、2030年代半ばには年間17~28万トンと予測されています。
最終処分場の残余容量が逼迫する中、単純な埋立処分ではなく高い資源回収率を実現するマテリアルリサイクル技術の開発が必要となります。
本研究開発項目では、分離処理コスト『2円/W』に向けての前段階として『3円/W』、マテリアルリサイクル率『80%』を目標として設定され、2件の技術開発が行われました。
なお本事業では、『回収物のマテリアルリサイクルによる当該製品を原料化するための低コスト技術開発、もしくは回収物の新規用途開発による当該用途への原料化を目的とする』ことに、特徴があると説明されています。
(ライフサイクルにおけるCO2排出量削減は、主要の目標となっていない)
本開発項目では、合わせガラス型太陽電池(CIS太陽電池)のリサイクル技術の開発がされています。実施者であるソーラーフロンティアでは、CIS太陽電池を製造販売(現在は生産終了、関連トピック)していた経緯もあり、CIS太陽電池独自のリサイクル技術開発をしていると考えられます。
パネルセパレータ―と呼ばれる方式のリサイクル装置が採用されており(関連トピック)、化学処理を併用することで有価資源を回収するシステムとなっています。
研究開発では、以下の項目が検討されています。
主要な成果として、将来の技術・コスト面での実現可能性を確認できたとあります。
ソーラーフロンティアの親会社の出光興産が中期経営計画で提示している「サーキュラービジネス」にて、Si系モジュールも含めたパネルリサイクル技術開発を行うことを公表しています。
この中期経営計画に基づき2020年度より10MW規模の技術実証プラントに着手し、2030年までに数百MW規模のリサイクル工場建設への投資を検討するとしています。
今回の研究開発を行った『合わせガラス型太陽電池モジュールのマテリアルリサイクル技術』が、高い経済合理性や、Si系太陽電池モジュールへの適用可能性が確認できたとしており、マテリアルリサイクルにより太陽光発電における高度循環型ビジネスが可能だと説明されています。
本開発項目では、太陽電池モジュールのリサイクルとして分解炉内でガラスとEVAを分離し、触媒作用により樹脂分解を行う方式となっています。
研究開発では、以下の項目が検討されています。
研究開発の成果として、将来の技術・コスト面での実現可能性を確認できたとあります。
太陽光発電システムの動向調査の項目の一つとして、国内の太陽光発電リサイクルに関する調査が行われています。
本研究開発の項目では、これまで調査・研究されている将来の廃棄パネルの推計予測における課題の整理、リサイクル技術や政策などに関する各種の動向の整理、ガラスリサイクル市場の実態などの基礎調査がされています。
本セクションでは、NEDOで検討された排出量予測モデル、導入量や排出量の予測に関する課題など、文献の調査結果などを踏まえた今後の検討方針が整理されています。
一部のリサイクル企業へのヒアリングなども実施されており、リサイクルに関する技術開発の状況、政策動向や実施事例などに加え、地域ごとの中間処理の実態やリサイクルガラスの処理能力などが整理されています。
また今後のリサイクル戦略(ロードマップ)を策定するために必要な情報収集・検討項目の整理が行われています。
本セクションでは、太陽光パネルのリサイクル後のガラスの出口に着目し、国内のガラス製品のマテリアルフローやガラスリサイクルの市場動向など、基礎的な調査がされています。
リサイクルガラスの受入れ先として想定される企業へのインタビュー等を通じて、将来の用途や原料としての受入れポテンシャル、各種の課題が整理されています。
既存のガラス製品市場での受入ポテンシャルは多くとも合計約5.5万トンであり、ピーク時17万~28万トンの使用済太陽光パネル由来のガラスの受入れはできないことが示唆されており、更なる受入ポテンシャル拡大と新規用途開発の重要性が指摘されています。
NEDOによる本プロジェクトは、太陽光発電の主力電源化に向けての今後の取組むべき課題に注力されており、今回成果は『太陽光発電主力電源化推進技術開発プロジェクト』に引継がれます。
太陽光パネルのリサイクルに関しては、将来の廃棄量予測の精緻化やリサイクルを通じた資源循環が求められます。今回の報告書では扱われていませんがリサイクルによる脱炭素化やガラスの再資源化など、取り組むべき多くの課題が残っているのも事実です。
引き続き最新の技術開発動向を、実際の企業の動向と合せて注目していく必要があります。