(公開日:2023-03-23)
2012年に開始した固定買取価格制度(FIT)により急増した太陽光発電設備は、調達期間(FIT期間)の20年後に順次撤去・廃棄が始まることが想定されており、将来の使用済太陽光パネルの排出量推計に関して環境省やNEDOなどが公表しています。
様々なメディアや論文などで上記の推計が取り上げられるものの、実際の導入量についての精緻な統計や分析が十分に行われてはおらず、前回のコラムでは各種資料から太陽光発電設備の導入量を推計し過積載などが考慮されていないなどの課題を紹介しました。
今回のコラムでは、太陽光発電設備のFIT認定情報を元にした将来の太陽光パネルの排出量に関する独自推計と、将来予測における課題を紹介したいと思います。
≪注意事項≫
下記で紹介する情報(分析方法、結果等)は、当WEBサイトによる独自の推計に基づきます。
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以下に紹介する情報については、閲覧者ご自身の判断に於いてご利用いただくものとし、本情報に依拠したことによる⼀切の責任は当WEBサイトでは負うものではありません。
FIT終了に伴い懸念されている太陽光パネルの大量廃棄については、環境省による検討結果『年間80万トン』や、NEDOによる『2035年ごろのピーク時で年間17~28万トン』などの排出予測がされています。
前回のコラムでは、各種統計や業界団体の公開資料から太陽光発電設備の導入量を推計しました。
FITによる太陽光発電の設置が進んだ現時点では、FITによる導入量推計がデータの信頼性や網羅性などで最も信頼できることも確認しましたが、一方では発電量を増やす過積載が考慮されていない等の課題もあると考えられます。
資源エネルギー庁のWEBサイトには20kW以上のFIT認定情報が公開されており、それぞれの発電事業の概要が確認できます。
公開されている情報のうち、20年間の調達終了年月(FIT終了時期)も記載されており、本情報を用いて将来の太陽光パネルの廃棄量の推計ができます。
認定情報に記載されている発電容量を、調達期間終了時期で集計を下図に示します。
2033年ごろからFITの終了する設備が増え、年間で最大8GW程度の発電容量が撤去または運転延長の判断がされることが推測されます。
過積載を考慮した場合、実際のパネル容量では最大で年間10GW分の『パネルの行く先』を考える必要があります。
なお認定情報を集計した結果では2040年にFIT終了のピークが確認できますが、2020年のFIT申請が多いことも一因と考えられますが、精査する必要があると考えられます。
調達期間が終了する発電所の『パネル重量』で集計したものが下図となります。
(発電容量からパネル質量への換算は、前回のコラムを参照)
FIT終了のピークが2034年~2035年および2040年に見られ、年間70万トン程度の太陽光パネルの撤去または運転延長を迎えることになると推測されます。
調達期間20年が経過した後に、実際の発電所が速やかに撤去され太陽光パネルが廃棄される訳ではありません。
個別の発電設備の状況(契約形態、事業主体の状況、設備の劣化具合など)や将来の電力市場や非化石価値、再エネに対する社会情勢など、撤去または運転延長、設備更新されるのかは不確実性が高いと考えられます。
一般に設備や機器の故障率などの分析はワイブル分布などにより推測されますが、『FIT20年』で前提条件が不連続に変化するため、推計として単純に用いることは適さないと考えられます。
以下では複数ケースを仮定して、FIT20年後に一様でない撤去・廃棄によりどのような影響があるかを考察していきます。
※排出量の予測ではなく、どの様な影響があるかを考えます。
機械や物体が破損する、劣化するといった現象を、時間の経過によって生じる確率を示すものとして『ワイブル分布』が使用されることがあります。
ワイブル分布を表す数式のパラメータを変えることで、経過時間における故障発生率を表現することができます。
(日本下水道事業団:よく見かける下水道用語 | ワイブル分布)
ワイブル分布により推計は、本来は機器等の設置後からの経過時間における故障率を推計するものです。
しかしながらFITによる太陽光発電設備は、調達期間20年で発電事業そのものが非連続に変化することが想定されます。
以下の推計では『FIT20年終了を起点』として、複数のケースを仮定して発電所の撤去・廃棄(更新)される太陽光パネルを考えます。
下図は、前項で集計したFIT20年間が終了する太陽光パネルの重量と、FIT20年後から撤去・廃棄される確率(ワイブル分布)で推計したものになります。
実際にFIT終了後にどの様に撤去・廃棄が進むかは今後の研究や調査が望まれますが、これらの推計結果から考えられることを次項で紹介します。
仮定の条件に基づく使用済太陽光パネルの排出量の独自に推計した結果ではあるものの、将来の排出量やこれまで実施されてきている排出量予測などと比較して、様々な事柄を考察することができます。
FIT後に運転継続することで排出ピークを抑え、かつ遅らせることが期待できますが、リサイクルをする側への影響も考える必要があります。
環境省による排出量推計との比較をしたものが、下図になります。
環境省の推計では年間80万トンの排出が見込まれていますが、実際のFIT認定情報を元にした太陽光パネルの重量との乖離が大いことが分かります。
また発電所(太陽光パネル)の寿命として『20年、25年、30年』といった単純な試算であり、想定される排出量の経過時間による分布が考慮されておらず、市場予測としては不十分と考えられます。
NEDOの排出量推計においては、実際の認定情報に基づく排出量が多くなっており推計の元になる発電容量の精査が必要だと考えられます。
排出シナリオとして4ケースで考慮されているものの、土地賃貸の条件(20年で発電終了または継続)等の仮定に基づく推計であり、排出量の時間経過による分布は考慮されていない様です。
非住宅用では、FIT 期間中に導入されたモジュールについては、導入から 20 年後に固定価格買取の終了に伴う排出(「FIT 買取期間終了後即排出」)が生じると仮定した。排出されるモジュールの割合(「FIT 買取期間終了後即排出割合」)は、シナリオ別に設定した。なお、 FIT 制度開始前に導入されたモジュールについては、全て 2012 年に移行認定を受けたと仮定した。
引用元:NEDO
現在太陽光パネルのリサイクルに関しての国や地方自治体の取組みの多くは、リサイクル施設導入への補助やリサイクル技術の開発等になります。
他方、将来の太陽光発電設備の排出量予測や運転継続の促進など、環境経済面での議論はあまり進んでいない様に思われます。
その様な観点から、技術開発・設備補助に重点を置いた政策からの転換も必要だと考えられます。
市場・経済活動を通じた企業間の健全な競争を促すためにも、10年後に迫った使用済太陽光パネルの排出量予測の見直しと情報公開が求められます。
現在、各種メディアが報道するなどして、2030年代に大量廃棄が予想される使用済太陽光パネルの廃棄問題が広く認識されるようになっています。
この問題に対して、環境省やNEDOによる過去の排出量推計が頻繁に取り上げていますが、公開されている情報を元にした簡易的な集計でも、これまでの排出量予測に課題があることが確認できます。
これまでの国や自治体の政策・取組みは、将来の大量廃棄に備えてリサイクル技術の開発や施設導入への補助に偏ってきました。
しかし、既に40社(※)程度が使用済太陽光パネルの中間処理事業を開始しており、100社以上(※)の企業がリサイクル装置の導入を具体的に検討しています。
人口統計を代表するように、正確な統計と将来予測は政策を進める上での基礎的な情報となります。
将来、適正かつ経済性のあるリサイクル環境を構築するために、排出量の推計の精緻化と情報公開が求められます。
(※2023年3月時点、PVリサイクル.com調べ)