2023年4月4日に行われた西村明宏環境相の記者会見に基づき(関連トピック)、環境省と経済産業省は『再生エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会』の第1回を、2023年4月24日に開催しました。
第1回検討会では、太陽光発電設備の導入状況や将来の大量廃棄の推計や懸念、両省が太陽光パネルの廃棄・リサイクルの課題に取り組んできた内容の紹介、そして今後の論点整理などが行われました。
検討会開催の背景と目的
2050年に向けてのカーボンニュートラル化やエネルギー安全保障、輸入に頼る資源の問題などから、再生可能エネルギーの重要性の高まりに伴い、再生可能エネルギーの持続的な導入には地域との共生が不可欠となっています。
一方で2012年に開始したFIT制度による太陽光発電の急速な普及により、地域との葛藤や将来の廃棄など、多くの課題も浮き彫りになっています。
これまで経済産業省・環境省では廃棄・リサイクルの課題について検討会(関連トピック)やワーキンググループ(関連トピック)が開催されています。
本検討会ではこれまでの議論の内容を踏まえ、太陽光パネルの大量廃棄に対する対策としてリサイクル技術、資源循環、法制度の専門家などの議論や業界団体や自治体などからのヒアリングを通じて、具体的なリサイクル促進策をまとめる予定となっています。
また今回の検討会では、風力発電設備(特にブレード)や他の再生可能エネルギー(中小水力・バイオマス・地熱)についても、それぞれの適性に応じた廃棄・リサイクルの仕組み作りが議論されるとあります。
経済産業省・環境省による説明
両省からは、太陽光パネルの廃棄・リサイクルにおいての現状やこれまでの取り組みなど、資料と合せて説明がなされています。
経済産業省
- 2023年3月末時点で、FITによる太陽光発電設備は6700万kW、245万件が導入
- 情報提供フォームへの提供された内容として、太陽光発電の故障や有害物質、将来の廃棄などに関する相談が9割を占める
- 排出量推計として2035~2037年頃に年間約17~28万トン程度、産業廃棄物の最終処分量の1.7~2.7%に相当
- 再エネ設備の廃棄・リサイクルに関するこれまでの取組みとして、ガイドラインの整備、廃棄費用積立制度、NEDOによるリサイクル技術開発が紹介
- 今後の方向性として再エネ特措法の改正を予定しており、関係法令事業者への制度運用厳格化、地域共生と適切な廃棄を前提としたルールの改訂、パネル含有物質の情報提供義務化が進められる
また、太陽光発電設備の廃棄・リサイクルに関する課題の今後の論点として、以下の説明がありました。
- 含有物質の情報提供について
⇒ パネル含有物質の情報提供を再エネ特措法の省令改正により、認定基準への追加等の対応が必要ではないか
- 不適切な管理・放置への対策について
⇒ 住宅用・事業用それぞれの管理から廃棄までの課題を踏まえた適切な取扱いについて検討するべきではないか
⇒ 発電事業者の責任を前提としつつ、適正な処理を実施するための制度的対応も含め検討すべきではないか
- リサイクルについて
⇒ リサイクルコスト低減に向けた技術的・制度的支援、義務的リサイクル制度の活用に向けた実態把握・検討が必要ではないか
⇒ ガラスの再資源化等のリサイクル後の用途についても検討が必要ではないか
環境省
- 2030年代後半以降、年間50~80万トンが排出されると想定
- 太陽光パネルのリユース・リサイクル、埋立処分の全体像
- 使用済み太陽光パネルの解体・撤去の状況(最新のアンケート結果)
- これまでの取組みとしてリサイクル・リユースのガイドラインや設備補助金の交付実績
今後の論点としては、以下の内容が挙げられています。
- 廃棄物・資源循環行政として『廃棄物適正処理による生活環境の保全 + 資源循環によるライフサイクル全体での環境負荷低減』の考慮
- 海外の太陽光パネル処理に関する制度
- 太陽光パネルの組成や含有物質の情報の必要性とリサイクル技術の現状と課題
⇒ ガラスのリサイクル促進、ガラスの成分情報
⇒ プラスチック・シリコンのマテリアルリサイクルに向けた取組み
今後の検討会の論点整理
今後の検討会を進めるにあたり、主な論点として以下の3点が挙げられています。
- 大量廃棄に向けた計画的な対応
- 廃棄・リサイクルに係る中長期的な計画の策定
- 今後の太陽光パネルの排出量見込みの精緻化、 リユース・リサイクルの技術動向やコストの実態把握
- リサイクル施設・管理型処分場のキャパシティの見込みを踏まえた、計画的な対応
- 地域の状況(廃棄・リサイクル等を行う事業者のキャパシティなど)に応じた議論
- 長期活用、適切な事業廃止及び撤去・ リユース・リサイクルを促進する施策
- 適切な事業廃止及び廃棄処理に関する対応
- 適切な廃棄、リサイクル等を行うために必要な含有物質情報の整理
- 認定申請時の登録の検討、既設案件についても含有物質情報提供の義務履行を担保させる施策
- 含有物質情報の一元管理された太陽光パネル型番ごとのデータベース化
- メーカー等から含有物質情報が提供されない場合の、成分分析の実施主体や実施方法の整理
- 発電事業終了後の安全に解体撤去方法や、廃棄せずに放置されたパネルについての対策
- 資源循環に向けた取組み
- 適正なリユース・ リサイクルを促進する観点や循環型社会形成推進基本法に基づく仕組み構築
- リユースやリサイクルを行う事業者の能力を担保する方策
- 『成長志向型の資源自律経済戦略』における、『3R+Renewable』に資する循環配慮設計の検討
- リサイクルの促進に向けて、ガラスや樹脂、セル等の素材毎にリサイクルの阻害要因の把握と対応策
委員からの指摘・コメントなど
適正な太陽光パネルの廃棄・リサイクルを進めるにおいて、委員からは含有物質の情報提供の重要性が指摘され、データベース構築やメーカー・事業者の責任の明確化が必要性が指摘されています。
またリサイクルの現状把握や将来の廃棄量推計の精緻化も必要であり、効率的な収集運搬やリサイクルにおける経済性、海外動向の把握や整合性など、多面的な議論が行われています。
- リサイクルを進める上で、太陽光パネルの含有物質情報のデータベース化が必要
⇒ EPR(拡大生産者責任)の一形態として、メーカーや事業者への提出義務化
⇒ 事業者に対して含有物質の情報を把握しているかの確認
⇒ メーカーが提供する情報の信頼性担保
- 将来の排出量推計の精緻化
⇒ 地域・時期を含めて計画的対応が必要
⇒ 将来のシナリオベースの議論の取り扱いに注意
⇒ リサイクルを進める上で導入状況のデータベース化や、リユース先の情報
- 関連する実態の数字での把握
⇒ 管理型処分場の逼迫度合
⇒ カーボンフットプリント対策としてのリサイクルの有効性
⇒ 生産及び輸入ベースからの、現状の太陽光発電所(太陽光パネル)の全数把握の検討
- 収集運搬などのロジスティックの経済性、住宅向けでの収集運搬のあり方
- FIT・FIP案件以外の廃棄費用の確保に関する検討
- 海外の動向調査や整合性、日本独自のルール(たこつぼ)にならないことに留意が必要
- リサイクルの質的・量的の目標設定、再エネへの負のイメージの払拭
今回の検討会では、過去の検討会提言やワーキンググループの中間報告を踏まえて論点整理が行われており、次回以降からは関連事業者へのヒアリングなど、個別の内容について議論が進められるとのことです。
まとめ
社会的に太陽光パネルの大量廃棄やリサイクルへの関心が高まる中、再エネ設備の適正廃棄・リサイクルの仕組み構築に向け、経産省・環境省を中心に論点整理が行われました。
一方で自治体が独自に進める補助金などの取組み、既にリサイクル(中間処理事業)を事業化している企業動向の把握など、関連事業者からの情報収集や実態の把握が不十分と感じる点も多々あります。
今後の検討会では、全国の自治体や事業者が取組みや先行事例、リサイクルでの課題などが網羅的に整理された議論が進むことが期待されます。またこれらの議論の成果は、関連事業者だけでなく広く国民に周知されることも望まれます。
参考資料