(公開:2023-12-13)
(更新:2023-12-14)
太陽光発電設備の導入状況は地域によって異なり、将来の撤去・廃棄やリサイクルを考える上で、それぞれの地域の特徴を正しく把握し理解する必要があります。
国内全体を対象として太陽光パネルの廃棄の議論することも重要ではあるものの、各地域の産業廃棄物行政やリサイクルに取組む事業者においては、更に解像度を上げた分析が求められます。
今回のコラムでは、地域特性を考察した分析事例として「三重県でのケーススタディ」を考えていきます。
≪注意事項≫
下記で紹介する情報(分析方法、結果等)は、当WEBサイトによる独自の推計に基づきます。
これら情報について正確性や完全性を保証するものではなく、第三者による評価やチェックも行われていません。
以下に紹介する情報については、閲覧者ご自身の判断に於いてご利用いただくものとし、本情報に依拠したことによる⼀切の責任は当WEBサイトでは負うものではありません。
資源エネルギー庁では、FIT導入状況として以下の二種類のデータをWEBサイトで公開しています。
これらの公開情報を基にした分析は過去にも紹介していますが(関連コラム)、各都道府県に関するFIT導入状況のデータも入手できます。
以下では、三重県内の太陽光発電設備の導入状況を整理していきます。
太陽光発電設備の市町村別の導入状況(2023年3月末時点)を、下図に示します。
(『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法 情報公表用ウェブサイト』の情報を使用)
県中央部から北部にかけての導入が進んでおり、志摩地域でも一部導入が多く見られます。
なお面積が大きい市町村の導入容量が大きくなることに注意が必要です。
(※各都道府県の市町村別導入容量は、こちらからも参照できます)
県内を5地域に分け、発電所の出力規模別に導入状況を示したものが下図となります。
県内の北中部(北勢・中勢地域)で導入が進んでおり、中勢地域では特に大規模(2MW以上)発電設備がに多いのに対して、北勢地域では10kW未満の発電所が多い傾向にあります。人口が集中している北部では、住宅や商業施設などへの導入が進んでいることが要因だと想定されます。
伊勢志摩地域では北中部ほどはないものの導入が進んでおり、特に500kW以上の産業用が多い傾向が見られます。
東紀州地域では山間部が多いことや人口が少ないことから導入量が少なくなっていると考えられますが、将来の撤去・廃棄時にはリサイクル設備までの効率的な収集運搬の必要性が示唆されます。
次に県内各地域の導入件数の状況を示します。
導入件数は全地域で50kW以上が98%を占めており、2MW以上の大規模案件に関しては50ヶ所程度(容量ベースでは約27%)と限定的となっています。
また半数弱が北勢地域に集中しており、住宅向けなどで導入が進んでいることが想定されます。
(※各都道府県の地域別導入状況は、こちらからも参照できます)
構成比率とボリューム量を面積として同時に表現できるマリメッコチャート(量率グラフ)は、全体の量と内訳を視覚的に捉えることができます。
ここでは、各市町村における導入容量を発電出力規模別にチャート化したものを紹介します。
本チャートを用いることで、数字だけでは判断しにくい導入状況や各地域の比較を容易に行うことができ、地域の状況を総合的に俯瞰することができます。
(※各都道府県のマリメッコチャートは、こちらからも参照できます)
GIS(地理情報システム)とは、位置に関する複数のデータを地図上に重ね合わせ視覚的に判読しやすい状態で表示し、高度な分析や結果の共有・管理を行うものとされています。
20kW以上の太陽光発電設備の認定情報には個々発電設備の情報(住所、発電容量等)が公開されており、ジオコーディング(住所情報を緯度・経度として座標変換)を活用して、様々な分析を行うことができます。
なお本分析で使用したジオコーディングは、GoogleのAPI機能をりようしています。
なお地図作成には、地理空間情報データの閲覧や編集などで行政や企業などでも利用されているオープンソースソフトウェア『QGIS』を利用しています。
発電設備の詳細情報が公開されているFIT20kW以上の太陽光発電設備に関して、設置場所と発電容量を円の大きさで地図化した事例です。
北勢~中勢~志摩にかけての沿岸平野部、志摩半島、伊賀地域で太陽光発電設備の導入が進んでいるのが確認できます。
市町村や地域別の集計では見えてこない実際の導入状況がGISを活用することでより把握することができ、視覚的な理解と合わせて詳細な分析を進めるための基礎的な情報として活用できます。
ここでは県内の地域を5kmメッシュ(南北約5km四方の格子状エリア)に分割し、それぞれのメッシュ内での導入容量を地図化したものを示します。
メッシュで表示することで市町村の境界や地形に影響されることなく、導入状況の地理的な分布を把握することができます。
また位置情報を基にした各種の分析において、個別のメッシュにデータを集約し一つの要素として分析することが可能となります。
(※全国をメッシュ化した地図は、こちらからも参照できます)
太陽光パネルの適正なリサイクルを行うことでCO2排出量の削減効果があることは以前のコラム(関連コラム)で紹介しましたが、実際の処理においては収集運搬にかかるCO2排出量も考慮する必要があります。
物流・建設業界に限らず人不足が今後の課題になることからも、輸送距離・頻度を少なくするためにも処理施設の立地選定は非常に重要と考えられます。
ここでは地理的な分析の一例として、処理施設の立地の違いによるCO2排出量の比較を紹介します。
なお実際の輸送では輸送車両や輸送頻度によりCO2排出量は異なる為、廃棄時の太陽光パネルの輸送量(=輸送トン数×輸送距離)で評価します。
輸送量の試算は、以下の手順によります。
なお輸送距離の算出は2地点間の直線距離ではなく、地図上(Google Map上)で実際の距離を算出しています。
(※下図に示す様な実際の輸送距離を、Google MapのAPI機能を使用して算出します)
メッシュ単位でデータを集約するため最終的な数字の精度が若干低下することは想定されますが、計算量を大幅に減らすことや条件・仮定が多い中でも大まかな推計が可能となります。
上記の2ケースの輸送量の算出結果は、下表となります。
今回の検討ケースでは、処理施設の立地の違いにより、輸送量が約1/3削減できる試算結果となっています。
本検討はあくまで仮定の条件による比較検討ですが、処理施設の立地が収取運搬のCO2排出量に影響することが示されています。
太陽光発電設備は日照条件や設置に適した地域に導入が進んでいますが、これらの状況は各地域によって特徴的なものとなっており、行政や事業者においても地域的特性を十分に把握する必要があると考えられます。
今回のコラムでは三重県をケーススタディとして県内の導入状況の詳細を把握し、GIS(位置情報)による分析として導入状況の可視化や分析事例として輸送に伴うCO2排出量の検討事例を紹介しました。
引き続き次回のコラムでは、太陽光パネルリサイクルの市場規模やリサイクル処理の需給に関して、地域に焦点を当てた検討を紹介します。