(公開:2024-01-02)
現在国内広く普及する太陽光パネルはシリコン系太陽光パネルであり、その約2/3を構成するガラスのリサイクルが重要となります。
ガラスのリサイクルを考える上で、国内のガラス製品全体のマテリアルバランスを紹介し、既存の産業や製品に依らない再資源化を考える必要性を紹介しました(前回コラム)。
今回のコラムでは、使用済太陽光パネルから発生するリサイクルガラスによる再生製品の事例を紹介し、技術的課題や市場ニーズなどを整理していきます。
環境省によれば、国内で流通する主なガラス製品のマテリアルバランス(2013年)は、板ガラス120万トン、ガラス繊維46万トン、ガラスびん129万トンとなっています。
太陽光パネルの排出量がピーク時で17~28万トン(関連トピック)とした場合、廃棄される太陽光パネルのガラスの影響は非常に大きいと考えられます。
また各ガラス製品のリサイクル率(リサイクルカレット利用率)も、2013年時点のデータで、板ガラス36%、ガラス短繊維65%、ガラスびん75%となっています。
長期的にガラス製品の生産量は減少傾向でありリサイクル材の需要も減少することや、ガラスびん・グラスウールは既に高いリサイクル率となっています。
さらに太陽光パネルメーカーが国内生産から撤退した現状では、既存の国内ガラス産業では将来的に大量に発生する『太陽光パネル≒ガラス』の受入れは難しいと考えられます。
環境省の調査報告書「令和3年度使用済太陽電池モジュールのリサイクル等の推進に係る調査業務報告書」によれば、リサイクルガラスの再生製品の事例が紹介されており、技術的課題や市場ニーズの比較などが報告されています。
本報告書では、ガラスのリサイクル材として需要が高まりつつあるもののPV高度処理技術を生かしたリサイクルシステムは十分でなく、リサイクルの普及促進にあたってリサイクル処理から再生製品製造までの一体的な取組みの重要性と課題が指摘されています。
【中間処理段階】
【再生製品製造段階】
【再生製品利用促進段階】
【将来の大量排出段階】
ガラスのリサイクル材としての将来の市場性やコスト、需給バランスや品質基準、資源循環性や社会認知度など、いずれの方法においても課題が多いのが実情だと考えられます。
太陽光パネルのリサイクルガラス(ガラスカレット)の再生利用として、環境省の報告書での事例以外にも各種の取組みが進んでいます。
以下ではこれらの概略を紹介します。
太陽光パネル用ガラスは、ソーダガラスと呼ばれる一般的な板ガラス(窓ガラスなど)と主要成分は類似しているものの、製造方法(※1)や消泡剤としてアンチモン(※2)を含有することなどが大きく違うとされています(関連トピック)。
一般の板ガラスはフロート法(※3)で製造されており、太陽光パネルガラスに含有するアンチモンが反応し、ガラス表面が白濁(※4)するとされています。
一方で、国内ガラス大手メーカーのAGCは太陽光パネルガラスのリサイクルに向け実証を進めているとされており、ガラスの原料となるカレット(ガラスの端材)にリサイクルする実証試験に、日本で初めて成功したと発表しています(関連トピック)。
※1:多くのPVガラスは型板ガラス(Patterned glass, Textured glass)として製造されています
※2:ガラス融液から気泡を取り除くプロセスは『清澄』とよばれ、五酸化二アンチモンの酸化還元反応により発生した気泡の成長・拡大により脱泡作用(ガス放出)が生じます
※3:溶解した金属スズの上に、比重の差を利用し溶けたガラスを浮かして板状にする製造方法
※4:アンチモンはフロート成型の溶融錫バス内の強還元雰囲気下で、表層のイオンが白濁することが知られています
現在ビンガラス等のリサイクルガラスがグラスウールの原料として利用されており、一部のリサイクル事業者により再資源化された太陽光パネルガラスがグラスウール原料の代替材として活用されています。
グラスウールへのリサイクルに関しては環境省の実証事業で評価されており、グラスウール原料として問題ないことが確認されています。
技術的な難易度は高くないものの、原料となるガラスカレットへの異物混入や状態などの要求により、専用リサイクル装置であっても活用できないケースがあります。
現状ではホットナイフ方式や燃焼式で分離選別したガラスが主に用いられており、一部のローラー剥離式でもリサイクル材料として採用されている事例があります。
発泡ガラスも既に一般のリサイクルガラスを再生した商品として流通しており、太陽光パネルのリサイクルガラスにおいても『ポーラスα®』や『スーパーソル』などの製品化を進めている事業者(企業グループ)があります。
鳥取再資源化研究所が開発したポーラスα®は、チヨダマシナリーや丸紅などが商品化を進めています(関連トピック)。
スーパーソルはガラス発泡資材事業協同組合が商品化を進める商品であり、加盟企業の幾つかが既に太陽光パネルリサイクル事業を進めていることから、今後再生原料として用いられることが考えられます(関連トピック)。
粘土などの原料を焼成して焼き固めるタイルでは、既に溶融スラグや廃ガラスなどのリサイクル材料が使用された製品が流通しています。
太陽光パネルガラスのリサイクルに関しては、平成27年および28年に環境省が実施した『低炭素型3R技術・システム実証事業の評価において、製品として問題ないと報告されています。
『太陽光パネルのガラス』を前面に出した商品はWEB上では見当たらないものの、ガラスビンなどのリサイクルカレットと同様に、リサイクル原料として使用されていると想定されます。
コンクリートの材料(骨材)としてリサイクルガラスの活用は既に過去多くの研究や実証が行われており、インターロッキングブロックなどの製品として流通しています。
一般に廃ガラスをコンクリート骨材として利用する場合、アルカリシリカ反応(ASR)が生じるとされており、ガラスの混入量の制限やフライアッシュなどの混和材を使用することでASRを抑える等の対策が取られています。
インターロッキングブロックの材料として太陽光パネルガラスを活用する事例として、北陸電力が実証を進めており大阪・関西万博でのパビリオンに採用を目指しています(関連トピック)。
従来からリサイクルガラス砂は埋戻し材などの土木資材として活用されており、多くのリサイクル材がエコマーク認定商品として流通しています。
太陽光パネルガラスは光の透過率を上げるためにFe分(※5)が少なく、専用リサイクル施設では色付きガラスなどが混入しないことから、砂として利用した場合に高い光の反射率が得られます。
国立研究開発法人産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所と廃ガラスリサイクル事業協同組合による共同研究が進められており(関連トピック)、太陽光発電所内での防草・反射材として両面受光太陽光パネルでの発電量増加が認められ、安全性や経済性の評価・実証が進んでいます。
※5:ガラス中に含まれる鉄イオンが赤外線領域の波長を吸収するため、一般のソーダガラス青みがかった色になります。太陽光パネルガラスでは、Fe成分の含有量が少ない低鉄ガラス(Low iron glass)が用いられています。
一般のソーダガラスの主成分は自然界にある砂と類似しており、自然由来の砂の代替材として環境省の環境技術実証事業(ETV事業)で『人工珪砂製造技術・人工珪砂(実証番号140-2201 )』として実証されており(関連トピック)、今後太陽光パネルのガラスの利用も想定しているとあります。
なおリサイクルガラスの人工砂を用いて水質環境の改善事例は、長崎県による大村湾の砂浜に廃ガラス再生砂による水質改善や、AGCによる宮城県での干潟造成などの事例があります。
太陽光パネルガラスのコンクリート骨材利用として、事業者や大学が実証・研究に取り組む事例もあります(関連トピック①、関連トピック②)。
太陽光パネルのリサイクルガラスを利用した食器(グラス)の製造や、社会課題に焦点を当てた作品などに活用されている事例もあります。
資源循環の実現には動静脈で資源のループを構築する必要があり、一般的に考慮すべき要求事項があります。
太陽光パネルの多くが海外から輸入されていることを鑑みると、再資源化に際しては太陽光パネル以外の用途でリサイクル資源を活用していく必要があります。
既に紹介した通り、国内ガラス産業でのリサイクル原料の受入れは容易ではなく、ガラスの原料も自然界に豊富に且つ安価・高品質に存在するため、経済性のメリットが見出しにくいとも云えます。
また一部では太陽光発電(再生可能エネルギー全般)への反感もあることから、リサイクル製品の安全性や環境への影響など、消費者や地域社会との丁寧なコミュニケーションが求められるとも考えられます。
太陽光パネルのガラスのリサイクルの重要性が認識されつつある中、国内のガラスマテリアルバランスの現状において既存のガラス産業や製品に依存しない創造的で効率的なリサイクル方法が求められます。
これらの背景から太陽光パネルのリサイクルガラスの有効活用に向けて多くの取組みが進んでいますが、現在のところ太陽光パネルの廃棄量はまだ少なく、今後の実証や市場開拓が課題だと考えられます。
ガラスの再資源化は太陽光パネルのリサイクルシステムにおいて重要なピースであり、資源循環の実現に向けた更なる研究開発が進むことが期待されます。