IEA PVPS(国際エネルギー機関の太陽光発電システムプログラム)は、ドイツでの太陽電池モジュールの回収とリサイクルに関するレポート「Status of PV Module Take-Back and Recycling in Germany 2024」を2024年3月に公表しています(関連トピック)。
本トピックではレポートの概要を紹介し、注目すべき内容をピックアップししていきます。
※以下の内容はPVリサイクル.com®運営者による要約であり、正確な内容は原本を参照ください
本報告書では、ドイツでの廃棄太陽光パネルの現状、廃棄物管理システムの課題や改善案などが、2部構成で報告されています。
第一部では、欧州廃電気電子機器指令(WEEE指令)の主要な法的枠組みと、ドイツにおける電気電子機器法(ElektroG)を通じた運用の紹介、PVモジュールの廃棄量の統計について紹介されています。
第二部では、回収とリサイクルのインフラに関する現状、関連するステークホルダーの実務経験を基に、リサイクルシステムの課題などが議論されています。
将来の大量の廃棄PVモジュールの課題に最初に直面する国の1つとして既に多くの措置が導入されており、他の国々のリサイクルシステム構築に向けた貴重な経験だとされています。
一方で、商業ベースでのリサイクルプラントが存在しておらず、将来の大幅に増加する廃棄パネルへのリサイクル能力拡充の必要性が指摘されています。
処理量の少ない現状では、大規模なリサイクル能力を持つ企業は2社となっており、Reiling社がSi系PVモジュールを、First Solar社ではCdTe系薄膜モジュールが、機械的および湿式化学処理によりリサイクルされています。
これらのプロセスは比較的容易にスケールアップが可能とされているものの、現時点ではリサイクルガラスが高品質な用途向けには品質要件を満たしておらず、またSi系PVモジュールのシリコンを経済的にリサイクルできない課題も指摘されています。
ワークショップの議論では、現在のドイツにおける廃棄PVモジュールの回収システムは非常に複雑だと指摘されています。
B2B/B2Cの違いによる費用増加、廃棄PVモジュールの不適切な取扱いによる高い破損率や、公共の収集ポイントへの回収義務についての情報提供の必要性などのステークホルダー間のコミュニケーションの必要性が求められています。
また、将来の大量廃棄に向けて廃棄PVモジュールの監視と追跡の改善が必要だと指摘されています。
本項ではドイツにおける太陽光発電の導入状況、将来の廃棄量予想や現在の廃棄量の実績などが紹介されています。
ドイツ全体では、2022年までに累積設置容量は約67GWpに達しており、2030年に215GWp、2040年に400 GWpへの拡大を目指しています。
これらの目標を達成するために、今後数年間で最大 年間22GWp太陽光発電設備が追加されると期待されています。
現在の廃棄PVモジュールの量は比較的少ないものの、2007年の設置ブームの結果として今後増加が予想されています。
将来の廃棄量に関しては、2030年に40万トンから100万トンの間になると予想されており、2050年に約430万トンに達するとされています。
2016年から2020年までの廃棄PVモジュールの実績は増加傾向にあります。
2020年までに42,300トンが回収されており、IRENAによる推定(通常の損失シナリオ)を上回っています。
本報告書の主な目的は、ドイツにおける現状の廃棄PVモジュール管理の枠組み、およびステークホルダーの経験に基づく評価の提供とされています。
この目的のために、2021年と2022年に26機関から20〜25人の専門家からなるワークショップが開催されており、廃棄物管理の現状と課題、潜在的な解決策と最適化策が議論されています。
欧州では、廃棄PVモジュールはWEEE(電気および電子機器廃棄物)として分類され、WEEE指令の法的枠組みによりドイツ国内の法律ElektroG(電気および電子機器法)として施行されています。
廃棄PVモジュールの回収・処理においては、主だった事項として以下の概要が定められています。
(※一部のみ抜粋して紹介)
WEEE指令に基づき施行されるElektroGに加えて、ドイツでは循環経済法(KrWG)が廃棄物の処理、回収、および廃棄に関する法的枠組みを提供しています。
EU廃棄物枠組み指令(European Union Waste Framework Directive, 2008/98/EC)に基づく循環経済法は「廃棄物の発生と管理における自然資源の保護と人間の健康および環境の保護を確保するために循環経済を促進すること」が規定とされており、リサイクルよりも廃棄物削減や適切なリユースを優先することが定められています。
PVモジュールの廃棄においても再利用とリサイクルが廃棄よりも優先されており、これを確実にするためにモジュールの非破壊的な分解と輸送が義務付けられています。
ドイツ市場でPVモジュールを供給する製造業者や正規代理業者は、WEEE登録機関であるStiftung EAR(電気廃棄物機器登録財団)に登録し、PVモジュールの販売数量や廃棄PVモジュールの数量を報告する必要があります。
Stiftung EARは年に1回統計を公表しており、これらの情報は統計データベースEurostatからアクセス可能となっています。
2021年の年次統計によると、2021年にドイツ市場には合計442,531トンのPVモジュールが供給され、4,676トンの廃棄PVモジュールが回収されたとされています。
なお、連邦環境庁(UBA)においても廃棄PVモジュールの情報が提供されていますが、統計方法などの違いから異なった数量となっているようです。
非政府組織であるドイツ環境活動協会(Deutsche Umwelthilfe)は、ドイツの太陽光発電業界の専門家へのインタビューや利害関係者への調査に基づく白書を発表しており、循環経済を強化するための課題と機会に関する要約がまとめられています。
本白書では、PVモジュールの廃棄プロセスなどにおける課題が指摘されています。
ドイツにおけるPVモジュールの回収とリサイクルついて、業界の専門家によるリサイクルワークショップにて、現行システムの課題や改善のため措置、ニーズなどにについて議論されています。
近年、PVモジュールのリサイクルプロセスを複数の企業や研究プロジェクトが開発され試験的に運用されている一方で、現在は廃棄PVモジュールの流通量が少ないため多くのパイロットリサイクル施設は産業規模での商業化には至っておらず、リサイクル施設の運用が財務的に厳しいとされています。
報告書では、Si系および非Si系PVモジュールのリサイクルとしてReilingとFirst Solarが紹介されており、また代替リサイクル技術の開発動向などの企業の取組みが紹介されています。
(Reilingの関連するトピック①、トピック②、トピック③)
PVモジュールの循環性を改善するために、いくつかの解決すべき課題が指摘されています。
ドイツは太陽光発電を大量に導入した最初の国であり、大量のリサイクルを行う最初の国になると考えられており、今後も導入が進む(2030年に215 GWp、2040年に400 GWp)ことからもリサイクルを考慮する必要があります。
一方で、これらの課題はドイツにとって大きな機会を提供するものでもあり、高度なリサイクルプロセスでリードすることができるとも指摘されています。
2021年および2022年に実施された専門家ワークショップで議論された内容に基づき、現在の回収・リサイクルシステムの課題と改善手段が提示されています。
廃棄PVモジュールの回収・リサイクルは、WEEE指令をドイツ国内法に反映したElektroGによって処理や追跡のための法的枠組みが提供されているものの、実際の関係者は現行システムに多くの課題があると指摘しています。
これらの実際の運用に基づき指摘されている課題に対して、システムやリサイクルフローの運用面や透明性の改善、多様なPVモジュールに対応したリサイクル施設の拡充、収集ポイントの改善や関係者のトレーニングなどによるコスト削減やモジュールの破損防止などが提言されています。
ドイツは最初に大量の太陽光発電を導入した国として、今後数年以内に大量の廃棄PVモジュールの処理する必要がある最初の国になるとされています。
本報告書では現行の回収・リサイクルシステムの現在の枠組みと状況や関連するステークホルダーの実際の経験がまとめられており、全体の課題と改善が必要な提示されています。
またドイツ国内の状況に焦点を当てた分析は、今後他の国でも同様に廃棄PVモジュールが増加する際の有益な教訓が提供されることも期待されています。
公式に報告される廃棄PVモジュールの統計量は予想されている廃棄量よりも少なく、多量のPVモジュールが不正輸出などの代替経路を経由して処分されることが想定されます。
初期処理後の材料フローは追跡が困難であり、処理プロセス全体でより良く追跡できる追加の措置が必要であると提案されています。
さらに個人の一般消費者が追加料金なしで廃棄PVモジュールを収集ポイントに持ち込むことができ(現在は約20モジュールに制限)、回収に関する情報の周知・認識が必要だとされています。
現在の回収システムが、B2B・B2Cで異なるために複雑さや回収時のステークホルダーの義務が認識・周知されていないことなどが指摘されています。
高い輸送コストを減らすために、収集時の手続きの改善や責任者への適切なトレーニング、モジュールメーカーでのラベリングによる仕分け作業の容易化などが提言されています。
さらなる輸送コスト削減措置として、収集ポイントから初期処理施設までの距離を短縮や、多種類のモジュールを処理できる初期処理施設が大幅なコスト改善の可能性があるとされています。
リサイクルインフラと処理能力を拡充、全てのモジュール種類のリサイクルプロセス、ガラスやシリコンなどが経済的にリサイクルの必要性などが指摘されています。
既に実用化されているリサイクルプロセスと代替技術を組み合わせることで、太陽光発電所の解体現場での初期処理を行うことなど、リサイクルインフラが拡張できると期待されています。
今回のIEA PVPSのレポートでは、世界に先んじて廃棄PVモジュールの大量廃棄を迎えるドイツにおける、太陽光パネルのリサイクルの現状や課題、改善などがまとめられており、日本を含めた他の国々への示唆に富むものとなっています。
日本の状況を鑑みると、ドイツ(EU)とは異なる仕組みではあるものの、民間企業によるリサイクル技術の開発や全国への施設導入、法制化・ガイドラインなどの行政の取組みなど他国をリードしている一方で、海外に情報発信できていないのが実情です。
IEA PVPSには日本からもメンバーが加盟しており(関連トピック)、リサイクル技術・産業の輸出の観点からも、海外へ向けた積極的な情報発信や企業支援が求められます。