インドでは太陽光発電の導入が急速に進んでおり、2023年に16.6GWが新規に導入され、累積容量でも日本を超える95.3GWとなり、世界3位(※IEA PVPS資料より)の太陽光発電大国となっています。
導入された太陽光パネルの廃棄に関しても課題として国内でも認識されており、政策提言を行う非営利シンクタンクである「Council on Energy, Environment and Water(CEEW)」が、太陽光パネルの廃棄量の推定をまとめた報告書「Enabling a Circular Economy in India’s Solar Industry」を公表しています。
今回のトピックでは、インドにおける太陽光パネルの廃棄量推定と政策提言の概要、本報告書の著者への質問・回答も紹介していきます。
※関連トピック:インドにおける太陽光パネルリサイクル情勢
インドでは2030年までに約292GWの太陽光発電容量が必要であり、急速な普及に伴いPVモジュールの廃棄物管理に関する懸念も高まっています。
責任あるPVモジュールの廃棄物管理は環境・経済・社会的な理由から重要なだけでなく、かつ廃棄PVモジュールには重要鉱物として分類される材料(シリコン、銅、テルル、カドミウムなど)が含まれており、鉱物輸入の安全保障を向上が期待されます。
国の行政では、環境森林気候変動省(MoEFCC)は電子廃棄物(管理)規則を改正により太陽電池およびモジュールを対象としており、新エネルギー・再生可能エネルギー省(MNRE)においても太陽光パネルのリサイクルを優先推進分野の1つとして指定しています。
これまでにもインドの太陽光パネルの廃棄量推定に関する先行研究はあるものの、寿命評価にグローバルなデータベースが利用されており、インドの気候条件に合わせたPVモジュールの劣化率と交換のトレンドを考慮した詳細な検討が重要です。
本報告書では、廃棄PVモジュールの時間的・地理的分布を推定するモデルを開発により、廃棄量推定におけるギャップを埋めるとともに、様々な条件によるシナリオの比較分析を行っています。
≪ 本報告書の主な成果 ≫
≪ 推奨事項 ≫
本章では、インドにおける太陽光発電の導入上の概要が説明されています。
インドの太陽光発電は過去10年間で26倍に成長し、2023年末には73.32 GWに達しています。
今後も成長は続くとされており、2030年までに約292GW、2050年に約1,700GW、2070年のネットゼロ目標達成には5,600GWの太陽光発電の導入量が必要とされています。
導入されている太陽光発電の大部分は南部(37%)と北部(34%)の州に導入されており、ラジャスタン州が17GW(26%)の他、グジャラート州、カルナータカ州、タミルナドゥ州、マハラシュトラ州で導入が進んでいます。
環境森林気候変動省は、2022年に電子廃棄物管理規則を発行し、太陽電池およびモジュール廃棄物の管理が規制されることになりました。
拡張生産者責任の枠組みに基づき、製造業者に廃棄物管理が義務付けられており、太陽光発電業界は収集、保管やリサイクル施設の整備など、新たな責任に備える必要があります。
また廃棄物管理に向けた資金調達やビジネスモデルの開発も必要であり、現在の廃棄量と将来推定に関する信頼性のあるデータへのアクセスが重要となります。
様々な地域でのPVモジュールの廃棄量を推定する研究がされているものの、廃棄量を見積るためのパラメータは全ての国で同じであり、モジュールの性能劣化や方法論などで地理的影響が考慮されていません。
インドに焦点を当てた研究により地域ごとの廃棄量やその地理的・時間的な分布を理解することができ、産業政策や市場モデルの指針となります。
本報告書では、包括的な各種の係数に基づく推定モデルを開発し、インド固有の廃棄PVモジュールの時間的および空間的な廃棄量の予測を提供します。
州レベルの詳細な推定は、廃棄物管理の革新的ビジネスモデルを開発に向けた廃棄物発生地域を明らかにし、
戦略的なリサイクルインフラや経済的な物流システムを構築することに寄与します。
本章では、PVモジュールの廃棄量推定モデルに関して、対象とする範囲や方法、および条件(係数)などが説明されています。
PVモジュールの廃棄は製造段階とプロジェクト段階(輸送・設置~運転~撤去・廃棄)に大別されますが、報告書ではプロジェクトの現場からの廃棄PVモジュールを対象としています。
またBoS(Balance of System、架台・基礎、パワコンなどの設備)は、対象とされていません。
廃棄PVモジュールの推定モデルは下記の数式で表現されており、輸送時、プロジェクト運用時、廃棄時の各段階それぞれの排出係数により算出されています。
上記算出式による廃棄推定と既存の廃棄量推定の比較として、3種類のシナリオが提示されています。
シナリオごとの比較は次章にて詳細が説明されています。
本章では、実際に観測された劣化率による廃棄PVモジュールの推定結果が説明されています。
2023年時点で国内導入量66.7GWから既に約100キロトンの廃棄PVモジュールが発生しており、2030年までに約340キロトンに増加すると推定されています。
廃棄PVモジュールの約67%は、導入の進むラジャスタン州、グジャラート州、カルナータカ州、タミル・ナドゥ州、アーンドラ・プラデーシュ州で発生し、ラジャスタン州だけで24%を占めています。
今後さらに太陽光発電の導入が進み、将来的には2040年までに累積で4,981キロトン、2050年に18,980キロトンに達する可能性があるとされています。
また本報告書で提示されている推定方法(条件)と、既存の推定方法(IRENAによる推定)の比較がされています。
この結果からも将来の廃棄量を推定に際しては、条件や地域ごとの違いを考慮することの重要性が確認できます。
インドが太陽光発電の累積導入量で日本を超え世界3位になるなどの情報はあまり知られておらず、また同様に廃棄物行政に関する情報も国内で目にすることは少ないのが実情です。
インドの太陽光発電の情勢の理解のため、報告書の著者であるAkanksha Tyagi氏に基本的な質問をしていますので紹介します。
Q.太陽光発電の設置が5つの州に集中しているのはなぜですか?
特にラジャスタン州とグジャラート州で増加している理由は何ですか?
A.太陽光発電の技術的ポテンシャルから、太陽光パネルの設置はこの5州に集中しています。
特にラジャスタン州とグジャラート州は日射量が多く、設置可能な土地も多い。
Q.太陽光パネルの品質や性能の劣化に関わらず、廃棄量が急激に増加する可能性はありますか?
(日本では、固定価格買取制度が終了する2030年中頃から、太陽電池モジュールの廃棄物が急増することが予想されています)
A.現時点では、非連続で廃棄量が増加するケースは想定していない。
インドではサンセット期間は無いため、プロジェクト全体の期間に渡ってに運転が継続されます。
(※サンセット期間:補助制度や法律などの政策が終了する予定の期間)
Q.廃棄物行政の管轄・責任は国または州政府ですか?
A.一般的な廃棄物ガイドラインは中央省庁(環境・森林・気候変動省)によって制定されます。
実施は州の省庁の部門(州汚染管理委員会など)に割り当てられます。
Q.太陽光パネルのリユースについては言及されていませんが、国内でリユースや輸出された実績はありますか?
また将来「リユースパネル」の市場は現実的だと考えますか?
A.規格外の太陽光パネルが、既に他の国に輸出されてリユースされているとった業界関係者からの情報はあります。
リユース売買は正規のルートでは採算が合わず、修理が困難なため積極的なリユースは行われていません。
Q.本報告書に対するインド国内での反応はどうですか?
A.報告書は非常に好評で、既に30以上のメディアに取り上げられています。
また産業界からも、今後の動向を理解するための問合せが、数多く寄せられています。
以前のトピックでも紹介しましたが、Tyagi氏によれば太陽光パネルのリサイクルに関しては行政や企業の関心は高くなっているものの実際のリサイクル技術や施設導入は進んでおらず、今後進展があるとされています。
既に日本を超えて世界3位の太陽光発電設備の導入国となったインドでは、国内では将来の大量廃棄が課題として認識されるものの、産官学による適正な廃棄・リサイクルへの取組みは未だ途上となっています。
また2025年にもGDPで日本を超えるとされており、新興国として存在感を増すだけでなく市場としても非常に有力な地域の1つとなることが予想されています。
日本国内では多くの企業がリサイクル装置の開発や施設導入を進めていますが、いずれ飽和する国内市場に留まらず成長する国・地域に進出するためにも、海外展開に向けた政策や企業の戦略が求められます。