オーストラリア先端太陽光発電センター(ACAP, The Australian Centre for Advanced Photovoltaics)は、オーストラリアにおける太陽光パネルのリサイクルに関するレポート “Scoping Study: Solar Panel End-of-life Management in Australia” 2024年3月に公表しています。
本トピックではレポートの概要を紹介し、注目すべき内容をピックアップしていきます。
※以下の内容はPVリサイクル.com®運営者による要約であり、正確な内容は原本を参照ください
オーストラリアは2030年までにCO2排出量の2005年比43%削減を掲げており、2050年までのネットゼロ達成を約束しています。 目標達成に向け大規模な太陽光発電導入が不可欠なものの、寿命が終えた後の数百万トンに及ぶ廃棄太陽光パネルの管理という課題も懸念されています。
本レポートでは豪州のPVリサイクルの状況、市場機会、ベストプラクティス、および太陽光パネルの廃棄物管理において最もコスト効果の高い戦略についての詳細な分析が提供されています。
オーストラリアでは、2035年までに累積で廃棄される太陽光パネルが100万トンに達し、その材料価値は10億豪ドルを超えると予測されています。
国内で太陽光パネルのリサイクル施設を設置することで資源回収の機会を提供し、埋立地の削減、循環経済の促進、雇用創出などに寄与するとされています。
太陽光パネルの廃棄は、まず住宅の屋根に設置された太陽光パネルから発生し、特にクイーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州で顕著であり、早急な対策が必要だとされています。
太陽光パネルのリサイクル施設として最適な設置場所として国内の五大都市(シドニー、メルボルン、ブリスベン、パース、アデレード)が提示されており、これらに加えて国内でいくつかの地域に施設を設けることで全国をカバーできるとされています。
本報告書では、これらの分析に基づき、今後オーストラリアが戦略的な取組みとして以下の提言がなされています。
オーストラリアでは2023年末時点で34GWが導入されています。
太陽光発電のコスト削減や石炭・ガス発電による電力コスト上昇などもあり導入ペースは加速するとされており、2030年までに50GW、2050年までに138GWに達するとされています。
オーストラリアでは初期の設置が主に住宅用だったこともあり、産業用の大規模のシステムが寿命を迎える前に、廃棄されることが予想されています。
使用済太陽光パネルの累積量は2025年に28万トン、2030年に68万トンに達すると予測されており、2034年から2035年には100万トンを超えると予想されており、2030年までは80%以上が小規模分散型PVシステムから発生すると見込まれています。
また年間の廃棄量は2025年には5万トンを超え、2030年から2035年には全国で年間1.2GW相当の約10万トンに達する可能性があると予測されています。
排出される地域は主要都市(シドニー、メルボルン、ブリスベン、パース、アデレード)周辺に集中しており、太陽光パネルのリサイクル施設を主要都市から順次設置していく必要性が示唆されています。
今後増加する廃棄太陽光パネルに対応するためには専用の処理施設を早急に設置する必要があります。
処理施設の設置に際して物流コストや持続的な受入量を考慮する必要があり、本章では廃棄量が多い地域の近くに戦略的な配置が検討されています。
オーストラリア東部の4つの主要都市(ブリスベン、メルボルン、シドニー、アデレード)は太陽光発電の導入量も多く、大規模な処理施設の設置が必要だとされています。またアルミニウム精錬やガラスのリサイクル・製造など、下流のインフラが都市部を中心に形成されているため、主要都市で大規模な太陽光パネルリサイクルのインフラを構築することに利点があると指摘されています。
西部地域では、処理施設をパースに設置するのが最も効率的だとされています。地域的に分散していることから、廃棄パネルの輸送距離が大きく東部より処理コストは割高になるものの、小規模な処理施設は非効率だとも指摘されています。
2030年までに主要都市で処理施設を設置することで、150km圏内で発生する廃棄PVパネルの70%以上をカバーでき、その後の廃棄量増加に合わせて適切な地域・処理能力を拡充していくことが必要だとされています。
太陽光パネルのリサイクルにおける処理の流れやリサイクル技術が概説されており、また実際のリサイクルの事例として”Veolia(フランス、ドイツ)”、”ROSI(フランス)”、”First Solar(米国)”など、他国の事例も紹介されています。
本章では、太陽光パネルのリサイクルにおいて、導入コスト、輸送費、有価物売却益、人件費や設備維持費などの条件に基づきコスト分析が行われています。
オプション1の場合、初期コストは運用コストに比べて無視できるものであり、処理量年間2,500トンが損益分岐点と試算されています。しかしガラスやバックシートの売却が適切にできないリスクを想定すると、損益分岐点は年間5,000トンに上昇する可能性があります。
オプション2では、高度リサイクル施設の導入に大規模な資本投資が必要であり、年間4,000トン未満では経済的に実現性は無く、小~中規模の処理施設には適さないと試算されています。
リサイクルのコスト分析の結果から、「課題と機会」について以下の指摘がされています。
本章では、太陽光発電システムの廃棄に関して、オーストラリア連邦、各州の廃棄物管理に関してまとめられています。また、欧米や東アジアの主要国の規制動向なども比較されています。
しかしながら、オーストラリア政府は業界主導のスキームに十分な進展がないと判断し、2022年10月に太陽光パネルを含むPVシステム製品スチュワードシップを制定すると発表し、2023年6月に規制スキーム案が公開されています。
本スキームはまだ最終決定されておらず変更の可能性はあるものの、最終的に2025年に決定される予定になっています。
ビクトリア州:廃棄物管理ポリシー(2018)に基づき、太陽光パネル、バッテリーシステム、およびインバーターを含む全ての電子廃棄物を埋立が禁止されています。
南オーストラリア州:2013年に電子廃棄物の埋立処分を禁止した最初の州ですが、現時点では太陽光発電システムは除外されています
クイーンズランド州: 2019年時点では太陽光発電システムおよびバッテリーの廃棄物は埋立しょぶんされており、リサイクルや再利用はされていません
西オーストラリア州:最新の電子廃棄物の埋立禁止に関する協議書において、対象となる電子廃棄物には太陽光発電システムは含まれていないものの、将来的には太陽光発電システムが対象になるとされています
オーストラリア連邦首都特別区(ACT):ACT政府はACT循環経済戦略と行動計画2023-2030を発表し、循環経済の重点領域として太陽光発電システムが特定されています。
ニューサウスウェールズ州:州政府は循環型ソーラー実証プログラムに1,000万豪ドルを拠出し、回収モデルの実証を通じてサプライチェーン全体でリサイクル促進・埋立処分の減少を目指しています。
2023年8月に、オーストラリア連邦首都特別区(ACT)政府により「ACTサーキュラーエコノミー戦略とアクションプラン2023-2030(ACT Circular Economy Strategy and Action Plan 2023-2030)」が発表されています。
本章では、キャンベラ周辺地域での太陽光発電システムの廃棄物管理に関して、廃棄物量の推計、最適な処理施設の立地条件、処理コストなどが試算されており、太陽光発電システムの廃棄物管理における推奨事項が提供されています。
2022年の国の製品スチュワードシップに加えて、ACTに対して今後6年間と12年間に関して、それぞれ以下の事項が推奨されています。
今後6年間
次の6〜12年間
前章までで分析された太陽光発電システムの廃棄物量の推計、適切な処理施設の立地条件、リサイクル技術や規制動向の整理などに基づき、本章ではオーストラリアの太陽光発電産業における循環経済を12 年間で育成するためのアクションプランが提示されています。
全国的に調整された製品スチュワードシッププログラムが包括的な管理枠組み
高い収集率とリサイクル率を実現するためのアクセシビリティの向上
国内の太陽パネル廃棄物管理能力を向上させるための革新的な技術
オーストラリアでは太陽光発電に適した環境から住宅向けでの導入が進んでおり、脱炭素化への移行から産業規模の太陽光発電も急速に増加しており、今後の太陽光パネルの廃棄が課題になると懸念されています。
本レポートでは、地域ごとの廃棄量の推計、処理コストや効率的な処理施設の立地が分析されており、分析結果に基づく政策提言がされています。
国内では2030年代の大量廃棄が懸念されているものの、推計値の見直しや地域性の考慮、回収・収集に関する包括的な取組みは十分でなく、本レポートに類似する評価分析や政策提言が必要だと考えられます。
また、国内では既に多くの企業がリサイクル装置の開発や施設導入を進めており、海外展開に向けて他国の情勢の分析や戦略的な取組みが求められます。