環境省では、令和5年度に実施した委託事業『令和5年度 建設廃棄物及び使用済再生可能エネルギー発電設備のリサイクル等の推進に係る調査・検討業務』の報告書を公開しています。
同様の調査が令和3年度および令和4年度にも実施されており、継続調査として使用済太陽光パネルの廃棄やリサイクルの実態について、事業者へのインタビューなどが報告されています。
また令和5年度の報告書では、最新の動向を反映した使用済太陽光パネルの排出量推計が行われています。
本トピックでは、継続的に実施されている使用済太陽光パネルの排出実態と、最新の排出量推計に関する概要を紹介します。
※過去の報告書に関するトピックはこちらから ⇒ 令和3年度、令和4年度
2012年のFIT制度導入以降、太陽光発電を中心とした再エネの導入が全国で進みました。
一方で、将来の使用済太陽光パネルの大量廃棄や、防災上の課題、環境や景観への影響などの課題や懸念も顕在化しており、災害や建設・運用中の故障などにより一部で使用済み太陽光パネルの廃棄も始まっています。
これらの懸念に対応するため環境省・経産省では再エネ設備の適正な導入・管理に関する検討会などが開催されており、使用済太陽電池モジュールのリユース・リサイクル、適正処理に向けた実態把握と詳細検討が求められています。
本調査では、使用済再生可能エネルギー発電設備のリユース・リサイクル促進のため、実態把握及び適正処理に向けた調査、将来的な排出量の推計などが行われています。
なお令和3年度および令和4年度にも同様の調査が実施・公開されていますが、検討会での議論や最新の情勢に合わせて調査内容の一部に変更などが見られます。
排出された使用済太陽電池モジュールの実態把握のため、前年度までと同様に関連事業者へのアンケート調査が実施されています。
令和5年度調査では計90社(令和4年度は75社)を対象にアンケート調査が行われ、57社(63.3%)から回答(有効回答は41社、45.6%)が得られています。
アンケート結果に基づき、排出された使用済太陽光パネルの処理状況として「リユースが2割、リサイクル(熱回収含む)が7割、残り1割が最終処分」と報告されています。
なおアンケート対象企業や過去の回答内容に変更があったため、前年度からの推移としては扱えないことに注意が必要です。
マテリアルフローの調査では、排出元となる事業者の属性が報告されています。
発電事業者(法人)からの排出が37%(令和4年度は28.6%)となっており、実際に保守管理や工事に携わる事業者より多い結果になっています。
その他前年度の調査と同様に、以下のアンケート調査が実際されています。
本項では、太陽電池モジュールのリサイクルでの課題などがアンケート調査の自由回答として実施されており、事業者が抱えるリサイクルの課題が整理されています。
<費用面での課題>
相対的に高いリサイクル費用や専用設備導入費など、リサイクル処理の経済性への懸念が指摘されています。
<制度面での課題>
ガイドラインだけではリサイクルへのインセンティブがなく、処理費用への補助や廃掃法の運用面での課題も指摘されています。
<情報面での課題>
太陽光パネルの含有物質の情報不足が課題であり、本来排出事業者側の責任であるものの処理事業者側のノウハウで対応していると指摘されています。
太陽光パネルの構成部材の大半を占めるガラスのリサイクルが課題として認識されており、モジュール由来のガラスの取引状況が調査されています。
アンケート対象の事業者の約6割が有償取引となっており、路盤材・発泡ガラス・グラスウールなどで利用されている事例が多くなっています。
またガラスのリサイクルの課題として、アンケート調査では需要が少ない事や有価性の低さが指摘されています。
各種ガラス製品の原料としてリサイクルガラスの利用が検討されていますが、品質や技術的・事業性の課題などがあると報告されています。
太陽光パネルのフレームやガラスを分離した後のセル・バックシートに含まれる銀・プラスチック・シリコンのリサイクルの実態に関して報告されています。
太陽電池モジュールの国内リユースの実態や国内リユースの課題および普及促進に関する検討について報告されています。
国内ではリユース市場が立ち上がっておらず、リユース品の8~9割が海外に輸出されているのが実態とされています。
国内でリユースパネルを活用していくには、需要喚起や事業性確保のための補助制度、標準化や情報連携などが必要だと指摘されています。
本項では、これまでの排出量推計に関しての背景や限界、排出量推計の要因や排出シナリオの整理、推計の基になる導入量推計などがまとめられています。
太陽電池モジュールの排出量推計は、過去に環境省やNEDOによる推計が実施されていますが、簡易的な推計ロジックや非FIT案件の排出行動の要因分析がなされていないなど、最新の導入量推計の反映が必要とされています。
これらを背景に「排出量が最大化したケースを想定し、非FITの排出量にもフォーカス」した排出量推計が行われています。
排出量推計として考慮すべき要因は令和4年度報告書で整理されており、今回の推計では以下の排出要因が組み込まれています。
太陽光発電の導入量実績・推計値は、「エネルギー白書(2023)」および太陽光発電協会「JPEA PV OUTLOOK 2050(2020年公表版)」、出力重量比率についてはNEDO推計(IRENA | End-of-life management: Solar Photovoltaic Panels(2016))が、それぞれ用いられています。
ヒアリングを行った発電事業者からは導入量推計が過大な数字だという意見もあったとされているが、排出量が最大化するケースを想定するため、本ケースが最適だと判断されています。
故障要因、発電事業者のFIT期間満了時の排出行動損益分岐に関する考え方の整理
排出量推計の要因について、それぞれ考え方が整理されています。
前項でまとめられた条件による排出量推計が、2つのシナリオでまとめられています。
<シナリオ①>
<シナリオ②>
但し本推計においては、導入量推計の更新に伴う排出量推計の更新余地や複数の仮定を用いた推計であることなど、様々な変動要因が推計結果に影響し不確実性は高いとされています。
そのため、事業性の評価等に使用する場合は、特に留意が必要になります。
本章では、「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン(第二版)」の認知度や改訂に向けた追記項目案などが、報告されています。
今回初めて風力発電設備の廃棄・リサイクルに関する調査が実施されており、風力発電(主にブレード)の排出量推計や、解体・撤去の実態、リサイクルにおける課題などが報告されています
今回紹介した『令和5年度 使用済再生可能エネルギー発電設備のリサイクル等の推進に係る調査・検討報告書』では、前年度からの継続調査に加えて、使用済太陽光パネルの排出量推計が更新されています。
排出量推計の見直しは国の検討会でも指摘されており、事業者や自治体においても重要視されるものの、報告書内で指摘されているように推計には条件や仮定による不確実性が伴うとされています。
今後の政策策定や事業活動に役立てるためには、統計調査のシステム化やリサイクル事業の定期的調査など、正確な実態把握に向けた方法が求められます