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南海トラフ地震での津波浸水想定エリアの太陽光発電設備

(公開:2024-08-23)
(更新:2024-08-25)

南海トラフ地震は駿河湾から日向灘沖を震源域として今後30年以内に70~80%の確立で発生するとされており、2024年8月8日には「南海トラフ地震臨時情報」が発表されるなど、いつ大規模地震が発生してもおかしくない状況です。
地震の発生に伴い太平洋沿岸の広い地域に大津波の襲来も想定されており、太陽光発電設備も浸水するなどの被害も想定されます。

今回のコラムでは、津波浸水域にある太陽光発電所の導入状況と処理能力との比較を行い、どの様な課題があるかを考察します。

≪注意事項≫
下記で紹介する情報(分析方法、結果等)は、当WEBサイトによる独自の推計に基づきます。
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南海トラフ地震とは

気象庁は2024年8月8日に日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震発生に伴い、大規模地震の発生可能性が平常時に比べて相対的に高まっているとして、同日に南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表しました(8月15日に解除)。

南海トラフ地震は、駿河湾から日向灘沖を震源域として過去に100~150年の周期で大規模な地震が発生しており、今後30年以内に70~80%の確立で発生するとされています。
地震の発生に伴い、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域に10mを超える大津波の襲来も想定されています。

南海トラフ巨大地震の津波高(引用元:気象庁

太陽光発電設備は沿岸部にも多く設置されており、地震の被害や津波による浸水が想定されます。

検討条件

津波浸水が想定される太陽光発電設備について、以下の条件で分析しています。

  • 対象エリア:静岡県から鹿児島県までの太平洋沿岸(愛媛県の瀬戸内海沿岸の一部は除外)
  • 津波浸水想定データ:国土交通省「国土数値情報 津波浸水想定データ」、津波浸水想定2023年度(令和5年度)版の最新情報(2016年~2023年)を使用
  • 太陽光発電設備の位置情報:資源エネルギー庁「事業計画認定情報 公表用ウェブサイト」、2023年8月時点の認定情報を使用、発電所の位置情報がある20kW以上のFIT認定案件(未稼働分含む)を対象
  • 分析アプリケーション:QGIS3.22、ジオコーディング(住所から緯度経度への変換)はGoogleマップのAPI機能を使用

なお20kW未満の認定情報は資源エネルギー庁のWEBサイトで公開されていないため、住宅向けなどに設置されている小規模の太陽光発電設備は本検討では考慮されていません。

浸水リスクのある太陽光発電設備

津波浸水想定エリアに位置する太陽光発電設備(FIT20kW以上)を分析した結果を整理します。

津波浸水エリアにある太陽光発電設備

静岡県から鹿児島県の太平洋沿岸に沿って、津波浸水エリアに太陽光発電所が設置されています。

津波浸水エリアにある太陽光発電設備(FIT認定情報等に基づきPVリサイクル.com®作成)

一部地域で、10MWを超える大規模な発電所も津波浸水のリスクがあることが分かります。

河口付近の三角州や海岸に沿って海抜の低い土地が広がるエリア、狭い湾が複雑に入り込んだリアス海岸などで、津波浸水のリスクが高いと云えます。

浸水リスクのある発電所容量

検討した10県では、静岡県や三重県で浸水エリアに立地している太陽光発電所が多くなっています。

津波浸水エリアにある太陽光発電容量および件数(FIT認定情報等に基づきPVリサイクル.com®作成)

特に徳島県では、徳島市から小松島市の沿岸にある太陽光発電設備が津波浸水エリアになっており、他県に比べて高い割合となっています。
また大分県では、大分市内の大規模なメガソーラー(計4か所、16~61MW)が海岸に面した位置にあり、2~5mの津波浸水エリアとなっています。

津波浸水エリアにある太陽光発電設備の容量および件数(FIT認定情報等に基づきPVリサイクル.com®作成)

津波浸水エリアにある太陽光発電設備のパネル全量を質量換算した場合と、災害廃棄物想定量の比較が下表となります。
太陽光パネルが数千トンから数万トンと少なくはないものの、災害廃棄物として発生する想定量は数千万トンに占める割合は非常に小さいことが分かります。

なお、津波浸水エリアにある太陽光発電所の設置状態により、必ずしも太陽光パネルなどが浸水する訳ではないことに注意が必要です。
 ex.)住宅や建屋の屋根設置、架台や基礎の高さなどで、実際の地面より高い位置に設置されている

従って上記の推計値は、想定される被害における最悪のケースであり、実際にはこれら想定値より少ないものと考えられます。

リサイクル施設の立地との比較

太平洋岸の津波浸水エリア(赤色部分)と、現在稼働している太陽光パネルの中間処理施設の立地を下図に示します。

津波浸水エリアと太陽光パネル中間処理施設(津波浸水想定データに基づきPVリサイクル.com®作成)

静岡県や愛知県、三重県北部では、処理施設の導入が進んでおり、浸水被害があった場合において、これら施設で処理が行われると考えられます。

四国や九州では、瀬戸内海沿岸地域や九州北部で処理施設があるものの、太平洋沿岸の地域での導入は進んでいません。
当該地域でも今後処理施設が増えていくという情報はありますが、地域ブロックなどでの広域での連携や協力体制が必要になると考えられます。

和歌山県や三重県南部などの紀伊地域では、能登半島地震で見られたように、災害時のアクセスが難しくなることも想定されます。
また現時点では太陽光パネル専用のリサイクル施設はなく(2024年8月時点、PVリサイクルcom®調べ)、収集運搬・処理の両面で検討が必要だと考えられます。

災害により被災した太陽光パネルの取り扱い

大規模な自然災害等で発生した廃棄物は「災害廃棄物」となり、各自治体が「災害廃棄物処理計画」に基づき処理が行われます。

災害廃棄物処理計画の策定に際して環境省が「災害廃棄物対策指針」を定めており、災害廃棄物としての太陽光パネルの区分や取扱い方法などが記載されています。

災害廃棄物の種類(引用元:環境省、一部追記)

災害廃棄物対策指針「技術資料」によれば、自治体での処理が必要となる災害廃棄物としての太陽光発電設備の種類は一般家庭から排出される場合となっており、産業廃棄物としての取り扱うと説明されています。

(引用元:環境省
リサイクルのガイドラインでの記載

環境省による「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン」において、災害時における使用済太陽光発電設備の取扱いが説明されています。

(引用元:環境省

ガイドラインでは、災害時に想定される標準的な解体・処分の流れ、太陽光発電設備の保有者や自治体担当者、解体・収集運搬事業者が、それぞれ対応すべき事項などが説明されています。

自治体における災害廃棄物処理計画での太陽光パネルの扱い

各自治体の災害廃棄物対策指針に基づき「災害廃棄物処理計画」が策定されており、一部の自治体の処理計画には太陽光パネルに関連した記載があります。

災害廃棄物処理計画に太陽光パネルに関する記載がある場合においても、基本的な取扱いにおける注意事項などに留まっています。
詳細な発生量の推計や処理フロー、広域での対応方針などに、踏み込んだ検討はされていないのが実態の様です。

大規模災害時の太陽光パネルの処理における課題

南海トラフ地震発生時には、地震や大津波により住宅、産業施設やインフラ全般が大きな被害を受けることが想定されています。
太陽光パネルは想定されている災害廃棄物量と比べて少ないものの、「危険物・有害物等」に区分されており、適正な処理・処分のために課題の整理が必要です。

災害発生時の太陽光パネル廃棄物の発生量推計

津波浸水エリアに設置された20kW以上の太陽光発電設備からの発生量は推計可能ですが、太陽光パネルの設置状態(屋根上や架台の高さ)によって推計量にばらつきが生じる可能性があります。
また、住宅向けを注とした20kW未満の設備に関しては、詳細な情報が一般に公開されていないため、各地域での導入状況を基に推計する必要があります。
特に一般家庭から排出される場合、自治体が災害廃棄物として処理責任を負うため、取扱いや収集運搬方法を含めた検討が求められます。

太陽光パネルの中間処理施設の立地と処理能力

大規模な災害時には、災害廃棄物の仮置場が設置され被災した太陽光パネルは一時的に保管された後、処理施設へ運ばれることになります。
しかし、太陽光パネルの中間処理施設の立地や導入状況、処理能力には偏りがあり、広域ブロック内だけでは処理が困難なケースも考えられるため、これらを含めた検討が必要です。

リユースパネルの被災地での活用

太陽光発電設備が被災・浸水し解体・撤去が必要になった場合でも、太陽光パネルそのものが品質や性能に問題がないケースもあります。
災害発生時にはインフラの被災や復旧の遅れにより、避難所や仮設施設で十分な電力が得られないことも考えられます。
こうした状況に備え、仮設住宅などでのリユースパネルの利用を視野に入れ、被災地で簡易的かつ迅速にリユースパネルを活用できる技術開発や運用方法の構築を検討する価値があると考えられます。

まとめ

南海トラフ地震発生時には、太平洋沿岸の広い地域で津波による被害が想定されており、太陽光発電設備にも影響が及ぶと考えられます。

今回のコラムでは、津波による浸水の影響を受ける太陽光パネルの発生量の推計と、災害時における適正処理の課題を整理しました。

2030年代に向けて太陽光パネルの大量廃棄に関する取り組みが進んでいますが、いつ発生してもおかしくない大規模災害への対応についても、今後の検討が必要です。

参考資料