IEA PVPS(国際エネルギー機関の太陽光発電システムプログラム)は、太陽光パネルのリサイクル技術について、世界中のリサイクル業者(リサイクラー)や文献・特許調査を対象とした広範な調査を行い、レポート「Advances in Photovoltaic Module Recycling – Literature Review and Update to Empirical Life Cycle Inventory Data and Patent Review」を2024年6月に公表しています(関連トピック)。
本レポートでは、欧州を中心に商業的またはパイロットプラントとして実施されている太陽光パネルのリサイクルのライフサイクルインベントリー(LCI、Life Cycle Inventories)が評価されており、日本を含む各国のリサイクラーや関連特許・論文のリストなどが紹介されています。
本トピックではレポートの概要を紹介し、注目すべき内容をピックアップししていきます。
※以下の内容はPVリサイクル.com®運営者による要約であり、正確な内容は原本を参照ください
本調査では太陽光パネルのリサイクル技術の進展を特定し、技術的・経済的に実現可能かつ環境にも配慮されていることを目的とされ、以下の調査や分析が行われています。
太陽光パネルのリサイクルにおける技術動向として、調査を通じて知見や結果が得られています。
各種の業界情報サイトやWEB検索、既存の調査レポート、関係者からの情報などにより、177社のリサイクル業者が特定されています。
商業的にリサイクルが行い地域で高い市場シェアを持ち、最低でもパイロットレベルで実証された革新的なリサイクルプロセスを適用している事業者を26社が選定されています。
これら企業のうち本調査に協力する意向を示した7社(日本企業からNPC)を対象に、ライフサイクルインベントリー調査やインタビューが実施されています。
リサイクル企業177社は、本レポートの添付資料「Table A-1: Global PV Recyclers」に記載されています。
エクセル化した資料は、こちらからダウンロードできます。
≪運営者による注記≫
本リストに記載の企業は十分に検証されていないものもあると、本レポートで説明されてます。
また日本国内企業を始め、十分にリサイクル企業は網羅されておらず、参考程度と考えることをお勧めします。
インタビューを実施した6社とモデル化されたプロセスの計7ケースにおいて、処理プロセスの説明とLCI評価がされています。
処理プロセスの規模や範囲、モジュールの種類、商用運転かパイロット段階の施設などLCI評価としての課題はあるものの、様々なリサイクルアプローチの有用性が認められるとされています。
また各処理プロセスでの銀・シリコンの回収状況や消費電力などもまとめられています。
リサイクルプロセスでは回収率に加えて材料の品質が経済性に影響し、ウォータージェット(LuxChemtech)やパルス光(Flaxres)による分離方式では高純度のガラスが回収できる可能性や、シリコンにおいても高い回収率(ROSI:純度5N~6N、Tialpi:純度99%)が報告されており、リサイクル材料の品質に関する情報提供の重要性が指摘されています。
技術開発の動向として、機械的なリサイクルプロセス(Reiling)は既に商業化されており、成熟度やコスト、低エネルギー消費の点でも、最も利用可能な技術とされています。しかし、現状ではシリコンと銀の回収はできないことやガラスの品質など、機械的分離技術の限界が近づいているとされています。
高品質かつ高回収率で銅、シリコン、銀を回収を実現するには、熱的・物理的・化学的処理などを組合せたリサイクルプロセスの開発と大規模な投資の必要も指摘されています。
太陽光発電またはモジュールのリサイクルに関する特許および文献を各種のデータベースにて調査が実施されており、1991年~2022年8月末の調査結果が整理されています。
太陽光パネルのリサイクルに関する特許調査として、対象となるパネルの種類やリサイクル方式、出願時期・出願国、主要な特許保有企業・団体などが整理されています。
市場で最も広く設置されているSi系太陽光パネルのリサイクルに関する出願が約80%を占めており、CdTe系やCIS系の太陽光パネルに関する出願は限定的です。
リサイクル方式として機械的プロセスが40%と主流ではあるものの、組合せプロセスなども25%確認されています。
出願件数は世界の太陽光発電市場の成長と機を合わせるように増えており、導入拡大に伴い関心が高まっていることを示しています。
出願国では、中国、米国、韓国の順で多く確認されており、続いて日本は49件となっています。
≪運営者による注記≫
国内企業は海外への特許出願を積極的に行っていないため、本調査では特定されていないと考えられます。
運営者による独自調査では、同期間で約130件の国内特許出願が確認できています。
組織・企業別の出願件数では、国別で中国・韓国・日本・米国・ドイツの順となっており(報告書 Fig.19)、主に太陽光パネルメーカーや大学・研究機関であり専門的な廃棄物処理企業は少ないとされています。
≪運営者による注記≫
出願件数で上位にある国内企業が多くありますが、幾つかの企業では事業化されていません。
国内企業の技術動向は、国内特許出願動向を分析したコラムを参照ください。
太陽光パネルのリサイクルに関する文献・論文の発表状況がまとめられており、2010年ごろから急激に増加しています。
特許出願と同様に国別・組織別、および著者別の発表状況もまとめられていますが、英語文献のみを集計していることもあり、日本の研究機関や研究者の存在感は低い状況となっています。
今回のIEA PVPSレポートでは、欧米企業による太陽光パネルのリサイクルにおけるライフサイクルインベントリー評価や特許出願・文献発表の動向を通じて、リサイクル技術の最新動向がまとめられています。
国内では、多くの企業が太陽光パネルのリサイクル技術の開発や装置の導入を進めており、政府においてもリサイクル義務化や再資源化事業の高度化が議論されています。
こうした背景を受け、それぞれの技術やプロセスの比較・評価が今後ますます重要になると考えられます。
一方で、国内企業の多くが国内市場を主なターゲットとしていることや、大学や研究機関による海外での論文発表が少ないことから、海外での存在感の低さが浮き彫りになっています。
こうした状況を踏まえ、国内技術を活用した海外市場の開拓や環境技術分野での国際協力など、官民が協力して取り組むことが期待されます。