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北海道における使用済み太陽光発電パネルの適正処理に向けた研究

北海道循環利用促進税による「循環資源利用促進重点課題研究開発事業」において、令和2年度~4年度に「地域実態に基づく使用済み太陽光発電パネルの適正処理に向けた研究」が北海道立総合研究機構で実施され、事業報告書が同機構のWEBサイトで公開(発行日:2025年1月28日)されています

本報告書では、今後の使用済み太陽光発電パネルの大量排出に向けて、北海道内の太陽光パネルの分布状況・排出動向や処理体制など、地域の実態に基づく詳細な分析や調査が行われています。 リモートセンシングや地理空間分析など、これまでの調査報告書では見られない検討方法や分析結果が報告されています。

本トピックでは、北海道における特徴的な実態や分析結果、検討されている内容などを紹介していきます。

調査事業の概要

本事業は、使用済太陽光パネルの大量廃棄に関して、北海道における詳細の実態調査と地域の実態を考慮した分析を行い、道内企業等の事業展開や行政での政策展開に期することを目的とされています

本事業では、北海道における使用済み太陽光発電パネルの大量廃棄に伴う最終処分の集中を緩和するとともに、最終処分量の減量化を目指すため、道内における太陽光発電パネルの詳細な分布状況やこれを踏まえた使用済み太陽光発電パネルの排出動向や処理体制など、地域実態に基づくリユースやリサイクルを含む新たな適正処理システムの構築に資する基盤情報を提供するための調査を実施した。

引用元:北海道立総合研究機構

報告書は3章構成となっており、第1章では国内の太陽光発電の導入状況や太陽光発電の基礎的な情報、使用済太陽光パネルの問題やそれらの取組み状況が整理されています。
第2章では、北海道における太陽光発電システムの導入状況や排出量の推計が行われており、道内事業者へのアンケート調査やリモートセンシング技術(衛星画像の活用)を活用した分析手法が紹介されています。
第3章では、事業者へのヒアリングや道内の事例紹介や地域特性を把握するため地理空間によるシミュレーション分析、適正処理システムの構築に向けた課題と提案がされています。

北海道における太陽光発電システムの導入状況

北海道内の太陽光発電システムの導入状況を、FIT認定情報や過去の補助金制度の実績データを活用し、時系列や地域ごとで整理されています。

(引用元:北海道立総合研究機構)

2021年時点で約20万トンの太陽光パネルが導入されたと推計されています。
また導入状況には地域的な偏在があり、太平洋沿岸地域やオホーツク地方の平野部、札幌市周辺に多く設置されているとされています。

(引用元:北海道立総合研究機構)

なお導入量(重量)の推計に際しては、太陽光パネルの導入量として設置時期によるパネル重量や過積載率の詳細な推計が行われています。

(引用元:北海道立総合研究機構)
(引用元:北海道立総合研究機構)

街区・建物単位での設置状況の把握

本報告書では、FIT認定情報などの統計資料に基づく市町村単位だけでなく、より詳細な導人状況を推計するためにジオコーディングやリモートセンシング技術による分析手法の検討がされています。

ジオコーディングによる設置箇所について可視化

FIT認定情報のうち20kW以上の発電設備については個別の詳細情報が掲載されており、具体的な設備の住所も含まれています。このデータを用いて住所から座標への変換(ジオコーディング)により、道内の太陽光発電システムの設置箇所について可視化が行われています。

(引用元:北海道立総合研究機構)

ジオコーディングで得られた結果はWebマップサービス(地理院地図やGoogle Mapなど)の航空写真・衛星画像と照合を行うことで、これらの位置情報を把握することができるとされています。
一方で、20kW未満のFIT認定設備やFIT以外の設備については把握できないことなどの課題がも指摘されています。

衛星画像を用いた太陽光パネルの抽出

太陽光発電パネルは一般的には上空が開けた場所に設置されるため、人口衛星から観測することが可能であると期待されており、本技術を活用した太陽光発電パネルの抽出が試みられています。

リモートセンシング技術とは、離れた場所から対象物の状態などを観測する技術の総称であり、人工衛星や航空写真、無人航空機(ドローン)などを用いた様々な観測が行われている。とりわけ人工衛星に搭載された種々のセンサを用いて得られる情報を活用する衛星リモートセンシングは、地表面などに関する広範囲の情報を把握できることや、同じ場所を一定の周期で繰り返し観測できること、可視光以外のセンサによって目視では把握できない情報を把蝿できるメリットなどがあり、気象観測や土地利用の解析など、様々な分野で活用されている技術である。

引用元:北海道立総合研究機構

本研究では、解像度や特徴・価格が異なる3種類の衛星観測データによる太陽光発電パネルの抽出が検証され、それおぞれのデータを用いた場合の抽出結果や課題が整理されています。

(引用元:北海道立総合研究機構)

解像度の高いデータを用いて個別の太陽光発電パネルの抽出も可能であるものの、誤分類や抽出漏れも多数見受けられる結果となっています。太陽光発電パネルの材質や形状、地表や屋根とのコントラスト、影の存在などの要因が考えられており、高解像度の画像利用に加えて深層学習に画像認識技術の必要性が提案されています。

(引用元:北海道立総合研究機構)

衛星画像などによる導人実績の推定については環境省で実証事業が行われており、機械学習を用いることで良好な結果(再現率9割以上)を得られており、本報告書においてもこれら技術を活用した設置箇所の観測や導入状況の推計の重要性が指摘されています。

道内発電事業者へのアンケートによる実態把握

本研究では、FIT認定事業者を対象としたアンケートが行われており、北海道における太陽光発電システムの実態や運用に関する事業者の意向、結果に基づく分析などが行われています。アンケートは2020年9月30日時点の情報に基づき運転開始済みの事業者1,079件(名寄せ作業などを実施)に対して2021年2月8日~3月15日まで行われ、回答総数353件(回答率32.7%)が得られています。

経済産業省などでもFIT認定事業者を対象にしたアンケート調査が行われていますが、地域に限定して全事業者を対象した事例は珍しく、地域の実態把握と今後の継続調査の可能性も含めて、非常に有益と考えられます。

(引用元:北海道立総合研究機構)

本アンケートでは、発電事業者が想定する廃棄費用が質問項目とされており、廃棄費用としてkWあたり1万~2.5万円程度を見込んでいる事業者が比較的多いものの、ばらつきも見られる結果となっています。

(引用元:北海道立総合研究機構)

解体等費用積立制度開始前の2021年時点のアンケートであり、太陽光パネルのリサイクル義務化による事業者の意識変化なども想定されますが、これまでのアンケート調査等にない非常に重要なデータと考えられます。

北海道における使用済み太陽光発電パネルの排出量予測

将来の使用済太陽光パネルの排出量推計は環境省やNEDOなどでも行われており、本報告書ではNEDO委託事業として行われた推計方法を基づき、北海道における太陽光パネルの排出量推計が行われています。
推計においては、前述のアンケート結果(自社用地/定期借地比率)を用いた結果も報告されています。

(引用元:北海道立総合研究機構)

北海道内における事業用システムの導人時期や用地の所有形態など推計の前提条件が全国を対象とした場合と比較して、ピークの時期や排出量推計などに特徴的な違いが見られます。
また品質管理工学の知見や統計的手法による試算例もあるものの、一方で不連続性の高い排出要因を十分に考慮できておらず、具体的な排出要因の把握を含め高度なモデルによる排出量推計が今後の課題だと指摘しています。

北海道内における太陽光発電パネル処理に向けた地城特性の把握

太陽光パネルの埋立処分を行う場合において管理型最終処分場の残余容量への懸念があるものの、北海道の試算結果は残余容量の0.49%と影響は必ずしも大きくないと報告されています。一方で、実際の処分場の受入れ品目の制限や道内域間をまたぐ非効率な移動、最終処分場の特定地域への集中などの懸念もあることも想定されます。

本研究では、北海道内に設置された太陽光発電パネルの輸送経路を考慮した最終処分場残余容量への影響を試算し、この結果を踏まえた地域的な特性が考察されています。

(引用元:北海道立総合研究機構)

太陽光発電設備の設置箇所から最短経路となる管理型最終処分場へ搬人すると仮定し、各々の振興局にある最終処分場の残余容量に占める割合が試算されています。

(引用元:北海道立総合研究機構)
(引用元:北海道立総合研究機構)

太陽光発電設備と最終処分場の立地の偏りのため処分場への影響は地域差が大きく、搬入可能な処分場が限られる場合など、地域的には最終処分が難しい可能性が指摘されています。

他地域に比べて面積の大きい北海道では、特に輸送コストの負担増が懸念されています。
今後リサイクル義務化において中間処理(リサイクル)が必須となる場合においても、リサイクル施設への運搬という同じ課題が考えられ、収集運搬コストを考慮した道内の処理体制構築が必要だと示唆されます。

まとめ

本報告書では、北海道における使用済太陽光パネルの大量排出を見据え、地域の実情に即した詳細な調査・分析が行われており、他地域と比較した際の北海道の特徴が明らかにされています。

また、他の調査報告書には見られない地理空間分析やリモートセンシング技術の活用により、太陽光パネルの廃棄や処理体制の構築に必要なデータを推計する新たな手法が提案されています。

全国規模の実証や調査報告書は数多く存在しますが、地域ごとの特性に応じた適正処理システムの構築に向けて、本報告書の知見が活かされることが期待されます。

参考資料