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太陽光パネルに含まれる『銀』

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(公開:2021-07-27)
(更新:2024-12-29)

太陽光パネルのリサイクルにおいて、構成材料をいかに再資源化できるかが重要となります。広く普及している結晶シリコン系太陽光パネルでは、有用資源として『銀』が使用されており、リサイクルの過程において回収されています関連トピック
一方で太陽光パネルのリサイクルの現場では、銀の含有量が減少しており回収効率が課題だとも囁かれています。

今回は太陽光パネルに使用される『銀』に関して、少し深掘りをしていきます。

太陽光パネルに使われる銀とは

結晶シリコン系太陽電池モジュールのセルは、P型シリコン層とN型シリコン層が接合されています。光を受けることで起電力が生じ、受光面と背面のそれぞれの表面に電極が構成されています。
受光面はより多くの光を受けるために、電極はより細くする必要があります。そのため表面に縞状の『フィンガー電極』が構成されており、このフィンガー電極に『銀ペースト』が使用されています。

銀ペーストはスクリーン印刷により表面に塗布された後、乾燥・焼成することでペーストの樹脂分を揮発させ、フィンガー電極が構成されます。

結晶系Si太陽電池セルの構造
(引用元:太陽電池のキホン
結晶系Si太陽電池セルの作製工程
(引用元:中山真志氏論文

発電セルに使用される銀の量は、バックコンタクト型などのセル構造やスクリーン印刷技術などにより異なります。

バックコンタクト型太陽電池(引用元:ソラメンテ

太陽光発電産業の銀需要

The Silver Instituteによれば、太陽光発電産業全体での銀消費量は2023年で6,019トン(19,350万トロイオンス、全需要は37,169トン)と銀市場全体に占める割合は高く、今後も増加が見込まれています。
予想を上回る太陽光パネル容量に加え、新世代のセルの採用が銀の需要を加速したとされています。

世界の銀需要(引用元:The Silver Institute

セル当たりの銀消費量は減少傾向にあるものの、世界的な太陽光発電の市場全体の成長に伴い銀の消費量は増加を続けています。

中国では世界の太陽光パネル出荷量の90%以上を占めており、総生産能力は需要の2倍以上とも言われる程に需要が高くなっていることに加え、P型セル(PERC)からN型セル(TOPConやHJT)への移行が進んでおり、これらは銀の使用量が高いことが特徴です。

太陽光発電産業での銀需要推移
(引用元:The Silver Institute

ここ数年は需要が供給を上回る状態が続いており、価格上昇は今後も続くと指摘されています。

世界の銀の供給-需要推移(引用元:The Silver Institute

価格圧力から銀の代替技術への移行や生産量やモジュール価格の調整などに影響を及ぼす可能性があると考えられます。
一方で、廃棄処分でのリサイクルによる銀回収のニーズが高まることも考えられ、将来の消費量や価格の見通しに注目する必要があります。

太陽光パネルに含まれる銀の含有量

太陽光パネルに含まれる銀の含有量はセルの種類や生産技術により違いがあり、そのデータなども一般には公表されていません。
環境省により太陽電池モジュールの含有試験結果で一部データが公表されていますが関連トピック、このデータは部位ごとの含有量であり、サンプル数も少ないため全体像を掴むことができません。

ドイツ機械工業連盟(以下VDMA)が発行している年次報告書『太陽光発電の国際技術ロードマップ(以下ITRPV)』には、Si系太陽電池のセルやモジュールの動向が説明されています。

現在Si系太陽電池セルで主流のPERCからTOPConやHJT(SHJ)へと移っており、将来的にはバックコンタクト型やタンデム型なども増えていくと予想されています。

Si系太陽電池セルのシェア(引用元:VDMA)
太陽電池セルの構造(引用元:応用物理学会

VDMAの報告書によれば、2023年時点でのセル出力当たりの銀消費量(mg/W)の平均値は、PERCの9.6mg/Wに比べて、TOPConは15mg/W、HJT(SHJ)では19mg/Wと消費量が多くなっています。
将来的にはPERCで6mg/W、TOPConおよびHJTで9mg/W程度まで減少すると予測されていますが、今後PERCの市場シェア減少を考慮すると、将来的にも銀のニーズは高いと考えられます。

セル種類別の銀消費量予測(引用元:VDMA)

また豪New South Wales大学の研究グループでは、2020年時点でのを銀消費量は以下の様に推計しています。

2020年時点の銀消費量推計値(引用元:Wiley Online Library

なお過去の太陽光パネルの銀消費量に関しては、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)のレポートで説明されています。
FITが開始した2010年代前半に比べて、銀の含有量(セル出力当たり銀消費量)が著しく減少しています。

太陽電池モジュール当たりの銀使用量(引用元:IRENA
※記事のソースは2013年のため、それ以降は予測値)

太陽光パネル1枚が20kg、発電出力250Wの場合、銀の消費量が0.2 g/Wpとすると、
 (0.2×250)÷20=※2.5 g/kg
となり、パネル質量の約0.25%を占めることになります。

Si系太陽電池の『銀』に関するサプライチェーン

世界的には今後もシリコン系太陽光パネルが太陽光発電の主流と見込まれる中、中国に生産シェアが集中していることから資源や経済安全保障での懸念が最近指摘されています。
その中で、Si系太陽電池セルに使用される『銀』のサプライチェーンにおいて、銀ペーストの原料となる銀粉生産プロセスで日本は高いシェアを有していると、独・蘭の研究グループによる研究結果があります。

Si系太陽電池(銀)のプロセス毎の国別シェア(2021年の推定値、引用元:Science Direct
Si系太陽電池(銀)の銀の取引の流れ(2021年の推定値、引用元:Science Direct

2021年以降に太陽電池モジュール生産量が急増したことから現在も高いシェアを有しているのかは不明ですが、太陽光パネルの銀(リサイクル)の動向は日本企業においても重要なことが示唆されます。

今後の銀消費量の見通し

セル出力当たりの銀使用量は学習効果により低下傾向にはあるものの、より多くの銀を使用するN型セル(TOPConやHJT)への移行や世界的な太陽光発電の需要の高まりなど、今後も銀の消費量は高いことが予測されています。

The Silver Instituteは2020年のレポートにおいて、将来の太陽電池セルでの銀需要の見通しを8,000万トロイオンス(約2,500トン)程度としていましたが、2023年時点で既に倍以上の消費量となっています。
IEAによる将来の銀需要の見通しでも2030年に3,500トン程度となっており、過去の予測以上の銀需要となっています。

2020年時点における太陽光発電の銀需要見通し
(引用元:The Silver Institute
IEAによる太陽光発電の銀需要見通し
(引用元:IEA

太陽光パネル製造における銀のコスト

太陽光パネルの製造方法や採用する技術レベルや生産量などにより異なり、生産コストに占める銀の割合を一概に説明は難しいものの、質量比で1%に満たない銀が材料コストで大きな割合を占めるとされています。

結晶シリコン系太陽光パネルの材料コスト(引用元:IRENA
図10_結晶系Si太陽光パネルの材料とコストの割合
結晶シリコン系太陽光パネルの材料とコストの割合(引用元:ACS Publications

また太陽電池セルの銀の消費量が減少する一方で、出力当たりの銀価格は2015年ごろから変わっていないという情報もあります。
太陽電池モジュールの価格は低下を続ける中で、製造コストに占める銀の割合が大きくなっている可能性が考えられます。

出力当たりの銀価格推移(引用元:pv magazine

まとめ

結晶シリコン系太陽光パネルに含まれる『銀』に関して、消費量や過去の推移と今後の見通しを概観しました。

使用済太陽光パネルのバックシート・セルから銀を回収することで、太陽光パネルのリサイクルの実現と資源の有効活用が期待されるものの、太陽光パネルの銀含有量の減少は回収プロセスでのコスト増につながることも考えられます。
一方で、銀の需給バランスや価格が見通しにくいものとなっており、将来の不確実性に左右される可能性が否定できません。

太陽光パネルのリサイクルにおいては分離技術やガラスの再生利用に焦点が当たっていますが、効率的な銀の回収技術・プロセスにも注目する必要があります。

参考資料