(公開日:2022-01-29)
最近報道やインターネット上の情報などにおいて、太陽光パネルのリサイクル技術が開発され実用化が進んでいるというニュースを目にすることが多くなっています。またNEDOによる技術開発プロジェクトなど、現在も多くの技術開発が進んでおります。
以前のコラムで各種リサイクル技術の概要を紹介しましたが、国内企業の研究開発や製品化の全体像をまとめた資料や論説などは、あまり目にしないように思われます。
今回のトピックでは、国内の特許出願状況からリサイクル技術の開発動向を俯瞰し、そこから考察される課題や提案を纏めたいと思います。
なお本トピックで使用する特許出願等の情報は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)にて2022年1月ごろに検索した結果に基づきます。
技術分類や製品情報は、同時期に各社WEB等の情報や個別調査により確認した内容であり、一部に不正確な情報を含む可能性があります。
太陽光パネルのリサイクルに関連して国内出願されている件数は80件であり、出願者は39者(企業・個人、団体など)となります(※)。
図1では、それぞれの出願技術を出願者、出願日、技術方式、特許化、製品化という分類でチャート化しています。
※PVリサイクル.com調べ
以下では、出願状況から各種の考察を進めていきます。
特許出願時期と件数を比較すると、FITが開始された2012年から急増していることが分かります。NEDOによる技術開発プロジェクトが始まるのが2014年(2018年までの5年間)であり(参考トピック)、国(NEDO)の支援に先駆けて多くの企業が独自に開発を進めていたことが分かります。
また太陽光パネルの廃棄問題が最近注目を集め始めていますが、FIT開始当初から既に一部では認知されていたことが覗えます。
リサイクル技術の分類に関しても、2012年を境に研究開発のトレンドが変わっているのが確認できます。2012年以前は化学的処理(有機溶剤や酸・アルカリに浸漬)が主流だったものが、物理的処理(機械的にガラスを破砕・剥離)が多くなっています。
またガラスを分離技術以外にも、枠外し技術や関連する周辺技術(回収やガラスのリサイクル)なども増えており、実際のリサイクル装置・システムとしての開発と並行して進んだ結果だと推察されます。
公開されているリサイクル技術と、出願した企業との関係を見ていきます。
出願企業を太陽光発電事業との関係を事業形態で分類したものが、図4となります。
化学的処理に関する技術は、『化学・素材メーカー』や『パネルメーカー』が多い一方で、物理的処理に関しては『装置メーカー』や『環境・リサイクル業』の多くで出願されています。
また枠外しに関する技術や周辺の関連技術など、実際のリサイクル装置やシステムで必要と考えられる技術に関しても、『装置メーカー』や『環境・リサイクル業』などにより多く出願されています。
引き続き、それぞれの業態でのリサイクル技術の開発(出願)動向を見ていきます。
2000年代の初めから数社がリサイクル技術の基礎研究を進めていた様ですが、FIT後の市場急拡大の状況下でリサイクルの取り組みが1社を除き下火になっています。
中韓勢との厳しいコスト競争の中、殆どの国内パネルメーカーが生産から撤退しており、ライフサイクルを通じた製品開発としてリソースを投入できなかったと推測されます。
2014年ごろから継続して出願しているパネルメーカー(d)は、パネル生産からは撤退したものの今後はリサイクル事業に取り組む意向であり、更なる技術開発に期待が持てます。
2000年代から多くの化学・素材メーカーが特許出願を行っており、化学的処理が多いことが特徴的です。
単発的に出願するもののその後の技術改良や製品化にはつながっておらず、あくまで自社の技術を応用した基礎研究の一環として広い分野で探索を行う中での一つだと考えられます。
いくつかの企業はNEDOと共同で研究開発を行ってはいますが、上記の通り具体的な成果に繋がっているとは言い難い状況です。
静脈産業に関わる企業では、FIT開始の2012年を境に開発が進んでいる様です。
もともと産業廃棄物に日々関わることから、自社の事業領域を進める上での技術開発が動機だと推察されます。一部の企業においては、自社での使用に留まらずリサイクル装置を販売している企業もあります。
またリサイクルの周辺技術(収集やセルの処理など)などでの出願も目立ち、産業廃棄物を扱うノウハウを含めた事業展開が期待されます。
リサイクル装置として販売している企業が最も多いのは、装置メーカー(破砕機メーカー)になります。
NEDOの技術開発プロジェクトが始まる2014年ごろから、幾つかの企業の参入が始まり各企業が独自のコア技術として製品化されています。
特徴として、①物理的処理が主流、②アルミ枠分解技術も開発、③開発期間3~4年に集中的に出願しているなどがあげられます。
装置メーカー固有の技術が物理的処理と相性が良いことも推察されますが、化学的処理や熱処理によりリサイクル方式が実際の設備として導入しにくいなど、マーケットや顧客ニーズに合致していると考えられます。
一方で周辺技術への取り組みは少なく、産業廃棄物処理システム全体としての提供に課題があるとも考えられます。
NEDOの共同開発プロジェクト等の成果として、いくつかの技術が特許出願されています(※)。
現時点では共同開発した技術が、一部を除いて製品化として成果につながっていないようです。リサイクル技術の研究開発の呼び水としての効果はあったとはいえ、費用対効果や技術選定など課題があると考えられます。
※『国等の委託研究の成果に係る記載事項』としてNEDOの記載がある特許出願
海外への出願状況という点では、申請が確認できたものが僅か5件となっています。
リサイクル装置を製造している企業は中小企業も多く、国内市場をターゲットにしていると考えられます。
一部装置メーカーでは海外への販売実績もあるものの、全体として見れば海外への技術・システム展開には消極的と云えます。
太陽光パネルのリサイクル技術に関する国内での特許出願状況から、以下の点があげられます。
海外勢との競争激化により太陽光パネルメーカーが生産から撤退する状況においても、多くの事業者がリサイクル装置を製品化してきました。これにより将来の使用済太陽光パネル大量廃棄においても、適切な処理技術が提供されるようになると考えられます。
一方で、現時点では国内でのパネル廃棄量は依然少なく、メーカーの乱立は各社の収益性に影響することが考えられ、その結果として処理能力向上やコストダウンなどの技術改良が進まない懸念があります。
またガラス剥離後の技術(ガラス利用や有価物回収など)や、ITを活用した効率的な収集運搬システムといった技術など、研究開発の軸足を移す必要があると考えられます。
現在もNEDOではリサイクル技術開発のプロジェクトを進めていますが、リサイクルシステム全体としての研究開発に軸足を移すとともに、リサイクル装置メーカーの海外展開への支援(知的財産や商流、システムとしての技術移転など)も議論されるフェーズに移ったと考えられます。
2012年開始の固定買取価格制度により太陽光発電が急激に普及してきましたが、リサイクル技術の開発も並行して進んできました。
多くの事業者の努力によりリサイクル装置が製品化されてきましたが、国内に限定した市場では今後過当競争や更なる改良が進まない懸念があります。
これまで循環型社会の実現のために太陽光パネルのリサイクル技術の開発が進められてきましたが、今後は海外市場も視野に入れた技術・システムの輸出といった視点での取り組みが必要になると考えられます。