太陽光パネルリサイクルの情報を掲載しております。

国内特許出願から見る太陽光パネルのリサイクル技術の動向

(公開日:2022-01-29)
(更新日:2025-01-20)

太陽光パネルの廃棄・リサイクルに関心が集まる中、太陽光パネルのリサイクル技術に関するニュースを目にする機会も多くなっています。
NEDOによる技術開発プロジェクト各種のリサイクル技術の概要を紹介しましたが、国内企業の研究開発や製品化の全体像をまとめた資料や論説などは、あまり目にしないように思われます。

今回のトピックでは、国内の特許出願状況からリサイクル技術の開発動向を俯瞰し、そこから考察される課題や提案を纏めたいと思います。

≪注意事項≫
・本トピックで紹介する特許出願等の情報は、特許情報プラットフォームおよびEspacenetにて2024年12月末に調査した結果に基づきます
・技術分類や製品情報は、各社WEB等の情報や個別調査により確認した内容であり、一部に不正確な情報を含む可能性があります。
・以下に紹介する情報について正確性や完全性を保証するものではなく、第三者による評価やチェックも行われていません。閲覧者ご自身の判断に於いてご利用いただくものとし、本情報に依拠したことによる⼀切の責任は当WEBサイトでは負うものではありません。

太陽光パネルのリサイクル技術に関する国内出願状況

太陽光パネルのリサイクルに関連して国内出願が確認できた件数は155件であり、出願者は67者(企業・団体・個人、海外からの出願も含む)となります(※)
下図は、それぞれの出願技術を出願者、出願日、技術方式、特許化/製品化状況という分類でチャート化しています。

(※2024年末時点、PVリサイクル.com®調べ)

太陽光パネルのリサイクル技術に関する国内特許出願状況(2024年末時点、PVリサイクル.com®調べ)

≪調査・集計における注意事項≫
・グループ会社などによる出願は、代表する1事業者に集約している。
・複数事業者による出願、権利を有する者は、技術を代表すると思われる1事業者としてカウントしている。
・年金未納で特許権消失、拒絶査定、出願取り下げなどの出願についても、件数としてカウントしている。

以下では、出願状況から各種の考察を進めていきます。

FIT開始時期を境とした出願技術の動向

特許出願時期と件数を比較すると、FITが開始された2012年から急増していることが分かります。
NEDOによる技術開発プロジェクトが始まるのが2014年ですが(2018年までの5年間、関連トピック、国(NEDO)の支援に先駆けて多くの企業が独自に開発を進めており、FIT開始当初から既に一部では認知されていたことが覗えます。
また、ここ数年太陽光パネルの廃棄問題が注目を集める中、社会の関心の高まりに軌を一にする様に2020年代に入りさらに多くの特許出願がされています。

国内特許出願状況(PVリサイクル.com®調べ)

リサイクル技術の分類に関しても、2012年を境に研究開発のトレンドが変わっているのが確認できます。
2012年以前は化学的処理(有機溶剤や酸・アルカリに浸漬)が主流だったものが、物理的処理(機械的にガラスを破砕・剥離)が多くなっています。
またガラスを分離技術以外にも、枠外し技術や関連する周辺技術(回収やガラスのリサイクル)などが増えており、実際のリサイクル装置・システムとしての開発と並行して進んでいる結果だと推察されます。

リサイクル方式による特許出願数(PVリサイクル.com®調べ)

リサイクル技術と業種の動向

公開されているリサイクル技術と、出願者の業種・業態で分類したものが、下図となります。

出願者の業態とリサイクル技術(PVリサイクル.com®調べ)

化学的処理に関する技術は、『化学・素材メーカー』や『パネルメーカー』が多い一方で、物理的処理に関しては『装置メーカー』や『環境・リサイクル業』の多くで出願されています。
また枠外しに関する技術や周辺の関連技術など、実際のリサイクル装置やシステムで必要と考えられる技術に関しても、『装置メーカー』や『環境・リサイクル業』などにより多く出願されています。

業態とリサイクル技術の変遷(PVリサイクル.com®調べ)

前回調査時点(2022年1月ごろ)と比較すると、『枠外し技術』や『その他関連技術』が多くなっており、実際のリサイクルプロセスに必要な技術が求められていることが示唆されます。
また『その他事業者』や『海外事業者』の出願も増えており、新しいプレーヤーの参入が増えていることが確認できます。
しかしながら、今後ニーズが高まると考えられる高度分離技術や代替技術(レーザーや光パルスなど)の出願は少ないのが現状です。

引き続き、それぞれの業態でのリサイクル技術の出願状況(開発動向)を見ていきます。

パネルメーカー

2000年代の初めから数社がリサイクル技術の基礎研究を進めていた様ですが、FIT後の市場急拡大の状況下でリサイクルの取り組みが1社を除き下火になっています。
中韓勢との厳しいコスト競争の中、殆どの国内パネルメーカーが生産から撤退しており、ライフサイクルを通じた製品開発としてリソースを投入できなかったと推察されます。

なお、2000年代から継続して出願しているパネルメーカー(a)は、パネル生産からは撤退したものの今後はリサイクル事業に取り組む意向であり、更なる技術開発に期待が持てます。

パネルメーカーの出願状況

化学・素材メーカー

2000年代から多くの化学・素材メーカーが特許出願を行っており、化学的処理が多いことが特徴的です。
単発的に出願するもののその後の技術改良や製品化にはつながっておらず、あくまで自社の技術を応用した基礎研究の一環として広い分野で探索を行う中での一つだと考えられます。
化学・素材メーカー(k)ではNEDOと共同で研究開発が行われており、現在は廃棄パネルは受入れていませんが、今後事業化を行うとされています。

化学・素材メーカーの出願状況

環境・リサイクル業

静脈産業に関わる企業では、FIT開始の2012年を境に開発が進んでいる様です。
もともと産業廃棄物に日々関わることから、自社の事業領域を進める上での技術開発が動機だと推察されます。一部の企業においては、自社での使用に留まらずリサイクル装置を販売している企業もあります。
またリサイクルの周辺技術(収集やセルの処理など)などでの出願も目立ち、産業廃棄物を扱うノウハウを含めた事業展開が期待されます。

(※実際の設備・プロセス非公開の場合もあり、出願された技術が実用化されているかは不明な場合も多い)

環境・リサイクル業の出願状況

装置メーカー(破砕機メーカー)

リサイクル装置として販売している企業が最も多いのは、装置メーカー(破砕機メーカー)になります。
NEDOの技術開発プロジェクトが始まる2014年ごろから、幾つかの企業の参入が始まり各企業が独自のコア技術として製品化されています。
特徴として、①物理的処理が主流、②アルミ枠分解技術も開発、③開発期間3~4年に集中的に出願しているなどがあげられます。

装置メーカー固有の技術が物理的処理と相性が良いことも推察されますが、化学的処理や熱処理によりリサイクル方式が実際の設備として導入しにくいなど、マーケットや顧客ニーズに合致していると考えられます。
一方で周辺技術への取り組みは少なく、産業廃棄物処理システム全体としての提供に課題があるとも考えられます。

装置メーカーの出願状況

NEDOによる技術開発プロジェクトと海外展開

NEDOの共同開発プロジェクト等の成果として、いくつかの技術が特許出願されています(※注1)
共同開発したリサイクル技術の一部は事業化として成果につながっているようですが、全ての研究開発プロジェクトが成果に繋がった訳ではないことが確認できます。

リサイクル技術の市場拡大としての呼び水としての効果はあったとはいえ、費用対効果や技術選定など課題があったともと考えられます。

NEDOとの共同開発および海外出願状況

海外への特許出願では、31件(16事業者)の出願が確認できています(※)
NEDOとの共同開発では海外への出願も多くみられる一方で、海外出願が可能なのは大手企業や上場企業などの一部偏っています。
リサイクル装置を製造している企業は中小企業も多く、国内市場をターゲットにしていることもと考えられます。

一部装置メーカーでは海外への販売実績もあるものの、全体として見れば海外への技術・システム展開には消極的と云えます。

≪注記≫
※1:『国等の委託研究の成果に係る記載事項』としてNEDO共同開発、または環境省補助事業と記載がある特許出願
※2:IEA PVPSの報告書では日本企業による『49件』の出願を確認したと報告されているが、重複カウントや対象技術として異なるものなどが含まれている(関連トピック

特許出願状況から考えられる課題

太陽光パネルのリサイクル技術に関する国内での特許出願状況や、いくつかの課題が考えられます。

  • 多くの事業者によりリサイクル技術の開発が進んでおり、既に製品として実用化されている
  • セルの回収技術やガラスの利用法など、ガラス分離後の周辺技術が相対的に増えてきている
  • 効率的な収集運搬に寄与する技術、プラットフォームやIoT活用などの技術開発が限定的
  • 海外への事業展開(特許出願)は全体として消極的である
  • 今後ニーズが高まると考えられる高度分離技術や代替技術(レーザーや光パルスなど)の出願は少ない

海外勢との競争激化により太陽光パネルメーカーが生産から撤退する状況においても、多くの事業者がリサイクル装置を製品化してきました。これにより将来の使用済太陽光パネル大量廃棄においても、適切な処理技術が提供されるようになると考えられます。
一方で、現時点では国内でのパネル廃棄量は依然少なく、メーカーの乱立は各社の収益性に影響することが考えられ、その結果として処理能力向上やコストダウンなどの技術改良が進まない懸念があります。
またガラス剥離後の技術(ガラス利用や有価物回収など)や、ITを活用した効率的な収集運搬システムといった技術など、研究開発の軸足を移す必要があると考えられます。

現在もNEDOではリサイクル技術開発のプロジェクトを進められていますが、リサイクルシステム全体としての研究開発に軸足を移すとともに、リサイクル装置メーカーの海外展開への支援(知的財産や商流、システムとしての技術移転など)も議論されるフェーズに移ったと考えられます。

まとめ

2012年開始の固定買取価格制度により太陽光発電が急激に普及してきましたが、リサイクル技術の開発も並行して進んできました。
多くの事業者の努力が実を結びリサイクル装置として製品化・事業化が進んできましたが、国内に限定した市場では今後過当競争や更なる改良が進まない懸念があります。

これまで循環型社会の実現のために太陽光パネルのリサイクル技術の開発が進められてきましたが、今後は海外市場も視野に入れた技術・システムの輸出といった視点での取り組みが必要になると考えられます。

参考資料