(公開日:2022-05-23)
環境省では、令和3年度に実施した委託事業『使用済太陽電池モジュールのリサイクル等の推進に係る調査業務』として報告書(本文177頁、別添資料42頁)を公開しています。
本報告書では、使用済太陽光パネルの廃棄やリサイクルの実態について、実際の事業者へのインタビューなどに基づく最新情報が纏められています。使用済太陽光パネルの排出数量や中間処理業者と導入装置のシェア、リサイクルガラスの利用方法など、これまでの報告書では公表されていなかった内容も含まれています。
今回のトピックでは、報告書内の重要と思われる内容やデータを中心に概要を紹介します。
FITによる太陽光発電設備導入の拡大を背景に、将来の使用済太陽電池モジュールの大量廃棄が想定されており、一部では災害や故障等により製品寿命を待たずに廃棄されている実態があります。
資源の有効利用、最終処分場の逼迫回避、有害物質の適正処理の観点から、将来にわたって安定的に使用済太陽電池モジュールを処理のため、リユースの判断基準の整備、廃棄実態等調査等、国内でのリユース・リサイクルの普及促進に関する調査が行われました。
上記の目的のため、本報告書では以下の調査内容が纏められています。
次項では、各項目に関して概要を紹介していきます。
リユース・リサイクルの実態把握にあたり関連する事業者58社に対してアンケート調査が行われ、36社(62%)から回答を得ています。
アンケートの結果は各調査項目で整理・分析されており、注目すべき結果が得られています。
アンケートの結果と太陽電池出荷量の実績から、素材別処理量としてのマテリアルフローも推察されています。
素材別の処理量はガラス1,314トンで最も多く、次いでアルミ356トンとなっており、ガラスのリサイクル・利用方法が重要だと示唆されます。
太陽電池モジュールの最終処分場への受入れ状況も調査されています。
処分場容量の大きい各地域の事業者44社に対して受入れ状況のアンケートが実施され、32社(72.7%)から回答が得られており、注目すべき結果は以下となります。
今後太陽電池モジュールの受入量が増加した場合の懸念について、処分場の運用・管理や残余容量への懸念があるとされています。
太陽電池モジュールのリユース品を扱う事業者からは、海外に輸出・販売しているという話を聞くことがありますが、数量や価格、輸出先等の実態は明らかになっていません。
本調査でも実態把握が試みられていますが、国の貿易統計に太陽電池モジュールに該当する項目がなく、正確な状況が把握できていないようです。
アンケート調査を試みたものの回答率が低く、実際は数社へのヒアリングとなっています。
撤去を実施している事業者が少なく、一般住宅からの廃棄事例や地域の小規模工務店で撤去等を行う事例が少ないと推察されています。
一方で、法制度が整備されていないことやリユース・リサイクル方法が周知されていない等の問題点が指摘されています。
欧州および米国などの太陽電池モジュールのリユースに関して、ヒアリングを中心に纏められています。現状の課題などが整理されていますが定量的なデータは少なく、今後の動向把握が必要と指摘されています。
以下では大まかなポイントのみを紹介します。
欧州では太陽電池モジュール設置が急拡大から15年が経過し、廃棄が始まったタイミングに合わせて中古市場が徐々に出現してきています。サーキュラーエコノミー推進として、再利用や修理が主要な役割を果たしており、30年間リユースすることで環境への負荷低減が示されています。
報告書では幾つかのポイントが纏められています。
米国では、太陽電池モジュールの設置が増加の傾向にあり、2019年~2022年には59GW相当の太陽電池モジュールが設置されたと推測されています。
欧州等比べて普及は比較的遅れたこともあり、これまで使用済太陽電池モジュールの発生量は多くないものの、今後は使用済太陽電池モジュールの増加が問題になると予想されています。
一方で使用済太陽電池モジュールのリユースは非常に限定的となっており、リサイクルについても低い水準と予測されているようです。
リユース・リサイクルを妨げる要因として、技術的・経済的な課題や法規制など複数の事項が指摘されています。
本章では、国内での太陽電池モジュールリユースに関する取り組みや、リユース品に関する実態調査などが記載されています。
本章では国内リサイクルの実態調査や課題整理が報告されています。
稼働しているのリサイクル装置・メーカー・導入台数や、リサイクルにおいて課題となるガラスの再生利用など、実際のリサイクルの現場では知られている内容が網羅的に説明されています。
環境省やNEDOによる技術開発、独自開発を行ってきた事業者による複数の技術が既に確立しており、全国でリサイクル装置の導入が進んでいます。
太陽電池モジュールの処理に特化した処理技術は主なもので8技術、少なくとも全国で28台の導入を確認されています。
なお本WEBサイトにおいても、各種技術についての概要を過去に紹介しています(メーカー名は記載無し)。
太陽電池モジュールの60~75%を占めるガラスのリサイクル率を向上させることが重要です。
報告書では太陽電池モジュール由来のガラスを再生した製品の事例とその特徴が纏められています。
PV高度処理技術の特徴を生かしたリサイクルの普及促進にあたって、処理の各段階での課題が整理されています。
【中間処理段階】
【再生製品製造段階】
【再生製品利用促進段階】
【将来の大量排出段階】
過去に環境省・NEDOで実施されて技術開発等で、太陽電池モジュールをリサイクルした場合のCO2削減効果が試算されています。
本項ではそれらの結果が記載されていますが、別途トピックとして解説する予定です。
太陽電池モジュールのリサイクルにおける費用や再生製品の評価などが記載されていますが、特に注目すべきは処理委託費用が調査されている点です。
地域・中間処理業者・モジュールの状態などにより異なりますが、排出事業者にとって関心の高い処理委託費は3,000円/枚前後(2,000~5,000円/枚)となっています。
また中間処理による分別回収した各素材(アルミ、銅線、ガラス等)の売却価格など、処理事業を検討する企業にとって参考となる数字も記載されています。
太陽光発電設備の設置に関する条例等を施行している地方自治体も多くあり、その中には太陽光発電設備の撤去・廃棄や太陽電池モジュールのリサイクル等に関して規定している場合もあります。
発電事業者などの関連事業者は、各地域での条例などを改めて確認する必要があります。
太陽光発電設備が被災した場合の保険適用での経済性ら、リユース・リサイクルへ誘導するにあたっての課題整理と検討がされています。
現在、被災した太陽光発電設備は保険により復旧コストの約10%が廃棄処理等の費用として支払われているとあります。
しかしながら建設コスト低下に伴い復旧コストも下落し、それに従う形で廃棄処理等の費用も下落すると考えられ、将来保険費用による適切な処理が出来なくなる可能性があると指摘されています。
保険支払い可能な処理費用を建設コストの違いでモデルケース(2020年/2030年)として試算し、埋立・リユース・リサイクルそれぞれの場合の費用・収益の比較がされています。
本試算では、将来的な建設コスト低下に伴い保険だけでは埋立・リサイクルができない事が示唆しています(発電事業者による復旧費用の一部負担が必要)。
一方で太陽電池モジュールを積極的にリユースすることで、復旧費用を抑えるとともに保険金給付が削減できる事が示されています(但し将来のリユース市況に依る)。
保険商品の性質上、顧客の経済合理性や利便性等が重要となることから、保険事業者が顧客対して選択肢を決定することはできないとあります。しかしながら、資源循環を考慮したリユース、リサイクルや、保険事業者・発電事業者ともに経済優位性の観点からもリユースや適切なリサイクルが望ましいと指摘されています。
その他の検討・調査として、以下の内容が記載されています。
第7章では、これまでの取組みでの検討やフォローアップ内容の整理、今後のリサイクルシステム構築や技術開発・環境配慮設計における検討課題、住宅用ユーザーへの周知方法など、これから検討すべき課題の整理が行われています。
第8章では、将来の排出量推計手法のレビューや比較が行われており、推計方法の見直しにおける考え方が整理されています。またガイドライン改訂の検討事項が整理されています。
今回紹介した環境省による『令和3年度使用済太陽電池モジュールのリサイクル等の推進に係る調査業務報告書』では使用済太陽電池モジュールのリサイクル・リユースに関する実態と、関連するデータが多く記載されています。
中間処理などのリサイクルやリユースに携わる事業者だけでなく、排出事業者においても重要なデータや内容が整理されています。
太陽光発電設備の廃棄については一般市民による懸念や事業者の参入への関心などが高まっており、更なる実態調査と適切なデータの調査・公開が望まれます。