(公開日:2021-03-25)
(更新日:2025-01-09)
再生可能エネルギー普及に関する取り組みとして、地方自治体の多くでエネルギーの地産地消に寄与する発電設備導入などを後押しする制度や補助金などに重点が置かれていました。
しかしメガソーラーなどの大規模な開発が環境や景観、地域住民の生活などに与える影響が無視できないこともあり、一部では条例等による開発規制も進んでいます。
太陽光発電設備(太陽光パネル)の撤去・廃棄に関しても、昨今地方自治体での関心は高くなっており、以下では主に都道府県での取り組みを紹介します。
太陽光発電設備の事業開発や運営管理に関しては、経済産業省や環境省、JPEAなどのガイドライン等に基づく必要があります。
発電設備の撤去や廃棄に関しても法制化(廃棄費用等積立)やガイドラインなどの整備が進んでいますが、自治体においても適切な撤去や廃棄方法の周知、報告の義務化などを規定している自治体は少なくありません。
環境省やNEDOによる技術開発が進められていますが、廃棄物・リサイクルという地域の課題解決のため独自の調査研究や実証事業の取組みを行う自治体も少なからずあります。
太陽光発電設備の適正処理・リサイクルに関して、地方自治体の取組みは概ね次に分類できます。
以下では、都道府県を中心に実施されている取組み事例を紹介していきます。
地方自治体として最も多い取り組みが、地方自治体が定めるメガソーラー等の維持・管理ガイドラインの中で、発電所の撤去・廃棄時の計画立案や報告を規定するものです。
廃棄物処理法への準拠や環境省・経済産業省が定めるガイドラインの情報提供などの対応が多く、一部自治体では太陽光発電施設の設置等に関する条例にて適切な撤去・廃棄が求められています。
また法定外目的税として導入されている産業廃棄物税を活用し、廃棄物の適正処理や循環型社会の実現に向けたリサイクル施設の導入に対して補助を実施している自治体もあります。
都道府県による太陽光発電設備の廃棄・リサイクルへの対応・取組み
*1)2024年12月末時点、自治体ホームページまたはWebで検索できたもののみを記載
*2)太陽光パネルのリサイクル設備に関して、補助金採択の実績確認可:◎、募集要項に対象と記載有り:◎、補助金対象か不明:〇
*3)各都道府県の補助金等の詳細は関連トピックを参照
*4)住宅用太陽光パネルの排出事業者に対し費用の一部を補助、2024年12月に小池都知事が設備導入への補助金検討に言及(関連トピック)
また多くの都道府県議会が、適正処理の法制化等(再エネ設備の適正導入、資源循環推進なども含む)を国へ要望する意見書(*5)を議決しています。
*5)2024年12月末時点、地方自治法第99条の規定により意見書として確認できたもの
上記は都道府県に関する内容ですが、類似のガイドラインや意見書は全国の市町村でも実施されています。
国による廃棄等費用の積立制度の施行に先行する形で、撤去費用の積立義務化まで踏み込んだ条例を制定した動きもあります。
一部の地方自治体では、地域の研究機関や事業者などによる協議会や研究調査、リサイクル・リユースの環境構築や実証プロジェクトなどが検討されており、代表的な取組みを紹介します。
秋田県では2011年から秋田県資源技術開発機構などと共同で、東日本PVリサイクルネットワーク構築事業の実施を開始し、経済産業省の実証事業やNEDOとの共同研究などを通じて使用済太陽光パネルの適正処理に関する調査等が実施されてきました。
EUで使用済み太陽光パネルリサイクル適正処理を行う国際非営利団体PY CYCLEと連携し、2021年からは「PV CYCLE JAPAN」として中間処理拠点の構築(関連トピック)、地域収集モデルやリユースの普及を進めています(関連トピック)。
また、県全域での環境・リサイクル産業の集積・創出・育成の促進を目的に「秋田県環境・リサイクル産業集積推進計画(秋田エコタウンプラン)」が策定されており、第3期秋田エコタウンプランでは再生可能エネルギー設備(太陽光発電設備)のリサイクルも今後の重点施策とされています。
福島県では、環境・リサイクル分野において県内外で産学官のネットワーク形成、研究開発や人材育成等の取組みとして「ふくしま環境・リサイクル関連産業研究会」が2015年に設立され、「太陽光パネルリサイクル事業化WG」などの取組みが進められていました。
現在は太陽光パネルの再利用や効率的な収集運搬、適切な中間処理と再資源化などの県内での一貫体制の構築に向けて「PVパネルリユース・リサイクル推進モデル事業」が進められており、排出事業者への費用補助や処理事業者の認定などが実施されています(関連トピック)。
またリサイクル施設導入への補助制度や(関連トピック)、県内に拠点を構える産業総合技術研究所福島再生可能エネルギー研究所による被災地企業への補助事業としてガラスリサイクルの実証事業なども行われています(関連トピック)。
埼玉県では、大量排出が見込まれる使用済太陽電池モジュールのリユース・リサイクルの体制を確立するため、産官学が連絡し処理体制の確立や新たなビジネスの創出を目的に「太陽電池モジュールリサイクル協議会」が設置されています。
2021年には「住宅用太陽光パネル回収事業(現在は終了、関連トピック)」として、住宅用太陽光パネルのリユース・リサイクルのルート構築に向けた回収実証事業が実施されています(関連トピック)。
東京都では、温室効果ガス50%削減の実現に向けて再生可能エネルギーの利用拡大を推進しており、2025年4月から新築住宅等への太陽光発電設備の設置を義務化する制度が開始されます。
太陽光パネルのリサイクルにも取組む必要から「太陽光発電設備の3R推進」にも力を入れており、各種の取組みが実施されています。
学識経験者による検討会や実証調査が過去に実施され、現在は太陽光発電設備に関わる事業者で構成される協議会においてリサイクル手法や有害物質の適切な管理、効率的なリサイクルの仕組みなどの検討が進められており、住宅用太陽光パネルの適正な廃棄・リサイクル環境の構築に取組んでいます。
また2024年12月には小池都知事が民報メディアによるインタビューにおいて、中間処理施設の導入に際しての補助事業を検討しているとも発言しています(関連トピック)。
山梨県では、太陽光発電施設がFIT調達期間終了後においても、再エネ電源として長期間確保した上で施設の廃止に至るまで県民の安全・安心に影響がないよう、使用済太陽光パネルの適正処理等について「山梨県におけるFIT調達期間終了後の太陽光発電施設に関する検討会」が開催されました(関連トピック)。
同検討会は2022年から開始され、計6回開催された後に「検討会とりまとめ」が公開されています。
愛知県では、サーキュラーエコノミーへの転換と3Rの高度化による循環ビジネスの進展を目標に『あいちサーキュラーエコノミー推進プラン』を策定されており、太陽光パネル循環利用モデルとしてプロジェクトチームが設けられており、愛知県内外の企業が参画しています(関連トピック)。
また、産業廃棄物税を活用した「愛知県循環型社会形成推進事業費補助金」では、太陽光パネルのリサイクルに関連して8事業者が採択されています(2024年度、2023年度、2022年度、2021年度)。
三重県では、使用済み太陽光パネルの排出実態や資源循環に向けた調査業務として「令和5年度使用済み太陽光パネル排出実態等調査業務(関連トピック)」、「令和6年度使用済み太陽光パネルの資源循環に向けた調査・検討業務(関連トピック)」が実施されています。
なお三重県のWEBサイト等で調査結果や報告書の確認ができないため、報告内容に関しては明らかではありません。
京都府では、太陽光パネルの製造・リサイクルなどに関わる企業や団体と循環システムの構築を目指す「京都PVパネル循環プラットフォーム」が設立されています(関連トピック)。
地元メディアやSNS、八幡市のリユースパネル実証事業で同プラットフォームと連携しているなどの情報は有りますが、活動の概要は公表されていない様です。
鳥取県では、丸紅株式会社および一般社団法人鳥取県産業資源循環協会の3者で、県内における使用済み太陽光パネルの適切な処理の促進を目的として「使用済み太陽光パネルリユース促進に関する連携協定書」を、2023年10月に締結しています。
徳島県では、2023年に「徳島県太陽光発電設備の導入実態等調査業務」を公募・発注しています(関連トピック)。
県のWEBサイトでは事業そのものに関する情報や調査結果は公表されていませんので、詳細は不明です。
(※業務を受注した関係者に、本業務の実施している旨は確認済)
福岡県では、福岡県リサイクル総合研究事業化センターと「太陽光発電(PV)保守・リサイクル推進協議会」を設置し、効率的な廃棄パネルの回収スキームとして全国に先駆けたモデルとなる「廃棄太陽光パネルスマート回収システム」を運用しています。
当システムではデジタルプラットフォーム活用した廃棄太陽光パネルのスマート回収支援や、PV発電事業者への点検・保守・リサイクルの啓発活動、情報発信などが行われています。
また太陽光パネルのリユースモデル事業にも取り組んでおり、スマート回収システムで調達したリユース太陽光パネルによる発電実証も行われています(関連トピック)。
日本最大級のエコタウンを有する北九州市では、2015年から太陽光パネルリサイクルプロジェクトを始動しており(市WEBサイトでは情報無し)、市内のリサイクル業者とリサイクル拠点形成を推進してきました。
最近ではリユースパネルの実証事業や、サーキュラーエコノミーの推進プロジェクトやエコタウン事業として太陽光パネルリサイクルを認定、太陽光パネルの大量廃棄問題を解決し再エネ導入を加速する「北九州トライアングルモデル」など、市町村単位で積極的な鳥喰が進んでいます。
一部の市町村では、地域の企業などと提携しリサイクルプロジェクトやリユースの実証などの取組みが実施されています。
その他多くの自治体においても、太陽光パネルの適正な廃棄・リサイクルに向けた検討や事業者向けのセミナー・見学会などが実施されています。
将来の太陽光発電設備(使用済太陽光パネル)の大量廃棄問題に対応するため、経済産業省や環境省では撤去・廃棄に関するガイドラインの策定や法制化を進めています。
これに並行して、地方自治体でもガイドラインの制定や協議会の設置、独自の実証事業、リサイクルスキームの構築など、多岐にわたる取り組みが展開されています。
廃棄物行政において地方自治体は深く関与しており、再生可能エネルギーの導入が地域の実状を踏まえて推進される中で、適正な廃棄・リサイクルに関しても自治体独自の取り組みが今後さらに進むと考えられます。
一方で、国との情報共有や他自治体のベストプラクティスが展開しているとは言えず、適正なリサイクル環境を構築する上での課題と考えられます。
また排出者である太陽光発電事業者にも、これらの情報を収集し必要な対応を取ることが今後求められます。